児童発達支援のAI記録と保護者連絡 一つのメモから記録と連絡帳を書き分ける手順

児童発達支援事業所の職員が、その日の観察メモを生成AIに渡し、支援記録と保護者への連絡帳の下書きを作ってもらいました。連絡帳の下書きには「Bくんとおもちゃの取り合いになりましたが、上手に気持ちを切り替えられました」とありました。メモに「上手に切り替えた」とは書いていません。取り合いの相手の名前も、保護者に送る文に入っていました。取り合いのときに腕が赤くなったことは、連絡帳の一文だけで済まされるところでした(説明のために作った架空の場面です)。どこで止めればよかったのでしょうか。
止める場所は、AIに頼む前です。一つのメモから記録と連絡帳を作るときは、先に職員がメモの一行ずつを「記録に残す」「連絡帳で伝える」「電話や迎えのときに直接伝える」に振り分けます。AIには振り分けたあとのメモと、書かない言葉を一緒に渡します。連絡帳の下書きは、送る前に、他の子の名前・メモにない気持ちや評価が入っていないかを職員が確かめます。この記事では、架空のメモ1件を使って、この流れをたどります。
記録と連絡帳は、読む人と役目が違う
児童発達支援の運営基準は、支援を提供したときは、その都度、提供日や内容などを記録するよう定めています。記録は、提供したことについて保護者の確認を受けることになっており、提供した日から5年間保存します。児童福祉法に基づく指定通所支援の事業等の人員、設備及び運営に関する基準 第21条・第54条(e-Gov法令検索)
こども家庭庁の「児童発達支援ガイドライン」(令和6年7月)は、職員がその日の支援の手順・内容・子どもの反応や気づきを記録することを求めています。そのうえで、日々の支援が支援目標や児童発達支援計画に沿っているかを、記録に基づいて確かめるとしています。同じガイドラインは、気になることなどを連絡ノート等で保護者と共有することも挙げています。こども家庭庁「児童発達支援ガイドライン」(令和6年7月、PDF)49・50ページ
記録は、支援をふり返り、計画を見直すための材料です。連絡帳は、保護者がその日の子どもの様子を知り、家庭での様子を返すための手紙です。材料は同じメモでも、読む人と役目が違います。そのため、一つのメモから両方をAIに作らせると、記録に残すべき細かな事実が連絡帳に流れ込んだり、保護者向けのやわらかい言い方が記録に入ったりします。
AIに渡す前に、メモの一行ずつを三つに振り分ける
ここで使うのは、架空の児童発達支援事業所で、4歳の子どもについて職員が書いたメモです。実在の子どもや事業所の記録ではありません。子どもは「本人」、ほかの子は「他児A」と書いています。
ただし、名前を記号に置き換えただけで、AIに入れてよい情報になるわけではありません。個人情報保護法は、他の情報と容易に照合して特定の個人を識別できるものも個人情報に含めています。事業所の記録と照らせば誰のことか分かるメモは、記号にしても個人情報として扱います。AIに入れる前に、使う目的、そのAIサービスでの保存や学習への利用の条件、事業所が認めた入力の範囲を確かめておきます。個人情報の保護に関する法律 第2条(e-Gov法令検索)
10:00 朝の会。名前を呼ばれて、自分で手を挙げた。先週は職員が手を添えていた。
10:30 小麦粉粘土。指先でつつくが、手のひらでは触らない。スプーンで混ぜるのは3分ほど続けた。
11:15 他児Aとブロックの取り合い。他児Aの手が当たり、本人の左の前腕が赤くなった。冷やして、11:40に赤みが引いたことを看護職員が確認。
11:30 おやつ。「もっと」のサインを2回出した。
13:00 迎えを待つ間、絵本を自分で選んで職員に渡した。
職員メモ: 家で粘土やどろんこ遊びをするか、保護者に聞きたい。
このメモを、次の三つに振り分けます。
- 記録に残す: 観察と対応のすべての行。時刻・先週との違い・他児Aとの取り合い・赤くなった場所・冷やした対応と確認した職員。最後の職員メモは観察ではないため、記録では「保護者への確認事項」として分けておきます。記録の中で他の子をどう書くか(記号にするかなど)は、事業所の決まりに従います。
- 連絡帳で伝える: 朝の会で自分で手を挙げたこと(先週との違いも)・粘土を指先でつつき、手のひらでは触らずにスプーンで混ぜたこと・おやつの「もっと」のサイン・絵本を自分で選んだこと・家での粘土遊びについての問い。
- 電話や迎えのときに直接伝える: 腕が赤くなったことと、その後の様子。
腕が赤くなったことを直接伝える欄に入れたのは、けがや体調の変化は、連絡帳の文面を整える前に、事業所の手順で対応と連絡を決めるものだからです。この振り分けは、その日の終わりに連絡帳を書く段階のものです。けがが起きたその場では、まず職員が子どもの状態を確かめて手当てをし、管理者に伝えます。保護者にいつ・どの方法で連絡するか(すぐに電話するか、迎えのときに話すか)は、事業所の緊急時の手順と管理者の判断で決めます。連絡帳から外すのは、連絡の方法を連絡帳以外にするためで、伝えなくてよいという意味ではありません。
ガイドラインは、事業所内でのトラブルや子どもの病気・事故の際の連絡体制を、事前に保護者と調整しておくことを求めています(同50ページ)。事故が起きた場合は速やかに家族等に連絡すること、事故の種類を問わず家族には連絡すること、事故発生直後の初期対応の手順を明確にしておくことも挙げています(同48・49ページ)。腕の赤みがどの程度なら電話をするか、連絡帳にも書くかは、こうした手順として事業所で決めておきます。直接伝えるときも、相手の子の名前は出しません。
振り分けるのは、その日子どもについていた職員です。迷う行は、「保護者が家で子どもと話すきっかけになるか」で連絡帳に入れるかを考え、「保護者がすぐに知る必要があるか」で直接伝えるかを考えると分けやすくなります。
AIには、振り分けたメモと、書かない言葉を一緒に渡す
連絡帳の頼み方の例
事業所が使ってよいと認めたAIサービスに、次のように頼む想定です。
児童発達支援事業所の職員です。下の「連絡帳で伝える」のメモから、保護者に送る連絡帳の下書きを書いてください。 読む人は、4歳の子どもの保護者です。 守ってほしいこと: ・メモに書いてあることだけを書く。メモにない気持ち、理由、出来事を足さない。 ・「上手に」「頑張って」「楽しく」「落ち着きがない」「こだわりが強い」のような、評価や見立ての言葉を足さない。 ・その日に見たことを、「できるようになりました」と言い切らない。先週との違いがメモにあるときは、その違いだけを書く。 ・ほかの子どもの名前や様子は書かない。 ・「直接伝える」のメモの内容は書かない。 ・最後に、メモの「聞きたいこと」を、保護者が一言で答えられる問いにして一つだけ書く。 ・分からない所は書かずに【確認】と書く。連絡帳で伝える:
(振り分けた行を貼る)聞きたいこと:
(職員メモの問いを貼る)
AIに貼るのは「連絡帳で伝える」に振り分けた行と問いだけです。子どもの名前、他の子の名前、住所や病名などは入れません。
送れる下書きの例
次のように返ってくれば、メモの行と一つずつ照らせます。説明のために作った想定の文で、実際のAIの出力ではありません。
今日の様子をお知らせします。
朝の会では、名前を呼ばれて、自分で手を挙げていました。先週は職員が手を添えていました。
小麦粉粘土では、指先でつついていました。手のひらでは触りませんでした。スプーンで混ぜるのは3分ほど続けていました。
おやつのときは、「もっと」のサインを2回出していました。
お迎えを待つ間に、絵本を自分で選んで職員に渡していました。
おうちでは、粘土やどろんこ遊びをすることはありますか。
そのまま送れない下書きの例
一方、次のような下書きは、文としては自然でも送りません。振り分けずにメモ全体を渡したときや、書かない言葉を伝えなかったときに出てきやすい形です。これも説明のために作った想定の文です。
- 「お友だちとブロックの取り合いになりましたが、すぐに仲直りできました。」: 他の子との出来事が入っています。「仲直りできました」はメモにありません。取り合いそのものが「直接伝える」に振り分けた出来事です。
- 「粘土遊びも楽しく取り組めました。」: メモでは、手のひらでは触っていません。「楽しく」もメモにない気持ちです。
- 「名前を呼ばれて手を挙げられるようになりました!」: 今日一回の様子を、できるようになったと言い切っています。メモにあるのは、今日は自分で挙げた、先週は手を添えていた、という二つの事実です。
- 「左腕が少し赤くなりましたが、すぐに治まったので心配いりません。」: 直接伝えると決めた内容が連絡帳に入っています。「心配いりません」は、保護者が判断することを職員が先に決めた言い方です。
記録の下書きを頼むときは、書式を渡す
支援記録の下書きもAIに頼む場合は、連絡帳とは別の依頼にします。渡すのは「記録に残す」の行と、事業所の記録の書式です。
児童発達支援事業所の職員です。下の「記録に残す」のメモから、支援記録の下書きを、下の書式で書いてください。 守ってほしいこと: ・メモに書いてあることだけを書く。言い換え、評価、理由を足さない。 ・時刻ごとに、場面・見たこと・職員の対応を分けて書く。対応がない行は「なし」と書く。 ・他の子は「他児A」のまま書く。 ・職員が保護者に聞きたいことは、最後の「保護者への確認事項」に分けて書く。 ・メモにない項目は書かずに【確認】と書く。書式:
時刻/場面/見たこと/職員の対応
保護者への確認事項:記録に残す:
(振り分けた行を貼る)
次のように返ってくれば、メモの行と一つずつ照らせます。これも想定の文で、実際のAIの出力ではありません。
10:00/朝の会/名前を呼ばれて、自分で手を挙げた。先週は職員が手を添えていた。/なし
10:30/小麦粉粘土/指先でつつくが、手のひらでは触らない。スプーンで混ぜるのは3分ほど続けた。/なし
11:15/ブロック/他児Aとブロックの取り合い。他児Aの手が当たり、本人の左の前腕が赤くなった。/冷やした。11:40に赤みが引いたことを看護職員が確認。保護者への連絡:【確認】
11:30/おやつ/「もっと」のサインを2回出した。/なし
13:00/迎え待ち/絵本を自分で選んで職員に渡した。/なし
保護者への確認事項: 家で粘土やどろんこ遊びをするか
【確認】の欄には、保護者にいつ・どの方法で伝えたかを職員が書き入れます。支援目標や計画とのつながりは、AIに推測させず、職員や児童発達支援管理責任者が書き足します。
送る前に、保護者の側から読み直す
連絡帳の下書きを読んだ保護者は、今日の子どもの様子を、メモと同じように受け取れるでしょうか。送る前に、書いた職員が次の四つを確かめます。
- 他の子が分からないか: 名前だけでなく、「いつも一緒に遊ぶ子」のような書き方からも、相手が分からないようにする。
- 一文ずつ、メモのどの行かを指せるか: 指せない文は、AIが足した文として消す。
- 評価や見立ての言葉がないか: 「上手」「苦手」「〜の傾向」のように、一日の様子から子どもを決めつける言葉を、見たことの言葉に戻す。発達の見立ては、面談や計画の見直しの場で話す。
- 直接伝えると決めた内容が入っていないか: けがや体調の変化、トラブルの様子が残っていたら、連絡帳から外す。そのうえで、保護者に事業所の手順どおり伝えたかを確かめ、伝えていなければ管理者に知らせる。
この四つで直す所が多い日は、AIの下書きを使わずに職員が書きます。AIが書いた文でも、保護者に届くのは事業所からの連絡です。運営基準は、従業者が保護者と子どもに、支援上必要な事項を理解しやすいように説明することを定めています(同基準第26条第3項)。
ガイドラインは、職員が行う保護者への連絡を、管理者が報告や記録の確認で把握することも求めています(同50ページ)。AIの下書きを使い始めたら、管理者は週に一度、送った連絡帳をいくつか、元のメモと並べて読みます。他の子の名前や、メモにない評価が入っていた件数を見て、頼み方を直します。
保護者からの返事は、記録と計画の見直しに戻す
連絡帳は、事業所から送って終わりではありません。たとえば最後の問いに、保護者が「家では砂場で手が汚れるのをいやがります」と返してきたとします(架空の返事です)。そのときは、その言葉をそのまま記録の家庭での様子の欄に写します。AIに要約させると、「感覚過敏がある」のような見立ての言葉に置き換わることがあるため、保護者の言葉は書き換えません。
返事は、計画の見直しの材料にもなります。粘土を手のひらで触らないことと、家で砂が手につくのをいやがることが重なるなら、次の面談で、活動の内容や道具を保護者と一緒に考えます。ガイドラインも、提供する支援の内容を保護者とともに考える姿勢を求めています(同49・50ページ)。
記録には、子どもが選んだこと・しなかったことも、見たとおりに残します。この日、子どもは絵本を自分で選びました。粘土は、手のひらでは触りませんでした。触らなかった理由はメモにないため、記録にも理由は書き足しません。いやがる声や身ぶりがあったときは、その表し方も記録します。ガイドラインは、子ども一人ひとりの人格や意見を尊重して支援を行うことを求めています(同16ページ)。AIが「わがまま」「拒否」のような言葉に言い換えていたら、見たことの言葉に戻します。
連絡帳アプリのAI機能を使うときに確かめること
記録や連絡帳のアプリに、AIで文を整える機能が付いていることがあります。使い始める前に、次の点を確かめておきます。
- AIの下書きを職員が直してから送る流れになっているか。下書きがそのまま保護者に届く設定になっていないか。
- 元のメモと、保護者に送った文が、それぞれ残るか。どれを運営基準の記録として5年間保存するかを、事業所で決めておく。
- 入力したメモが、サービスの提供以外の目的(AIの学習など)に使われないか。利用規約や設定で確かめる。
- 他の子の名前や、写真に写った他の子の扱いをどうするか。
個人情報保護委員会は、個人情報を含むプロンプト(AIへの指示文)を生成AIサービスに入力する場合、利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確かめるよう注意を呼びかけています。あらかじめ本人の同意を得ずに個人データを入力し、それが応答の出力以外の目的で扱われる場合は、個人情報保護法の規定に違反する可能性があることも示しています。個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(PDF)
運営基準は、事業所の職員が業務で知った子どもや家族の秘密を、正当な理由なく漏らしてはならないとも定めています(同基準第47条)。アプリやAIサービスにどの情報まで入れてよいかは、事業所が条件を決めて認めた範囲に限ります。
明日の連絡帳1件で、メモを三つに振り分けてみる
一つのメモから記録と連絡帳を作るときに手間をかける場所は、AIに頼む前の振り分けです。記録に残すこと・連絡帳で伝えること・直接伝えることを職員が分けてから頼めば、他の子の名前やメモにない評価を、保護者に届く前に止めやすくなります。取りかかる順番は、次の三つです。
- 明日の子ども1人分のメモを、「記録に残す」「連絡帳で伝える」「直接伝える」に振り分ける。
- 「連絡帳で伝える」の行と問い一つを、頼み方の例と一緒にAIに渡し、返ってきた下書きを四つの点で確かめてから送る。
- 保護者からの返事を、言葉を変えずに記録に写す。
1週間試したら、振り分けから確かめと直しまでにかかった時間と、確かめで消した文の数を見ます。そのうえで、ほかの子どもや職員に広げるかを決めます。
職員によって、メモの書き方も、どこまでを連絡帳に書くかも違います。けがや体調の変化をどの程度で電話するか、アプリのAI機能にどこまで入れてよいかが決まっていないと、AIの下書きを使うたびに職員が一人で判断することになります。
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