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障害福祉の事故報告書・ヒヤリハットのAI下書き 経過はメモから、原因と対策は話し合ってから

障害福祉の事故報告書・ヒヤリハットのAI下書き 経過はメモから、原因と対策は話し合ってから

生活介護事業所で、利用者が廊下の床に座っているのを職員が見つけました。けがの確認と家族への連絡を終えたあと、職員は自分のメモを生成AIに渡し、事故報告書の下書きを頼みました。返ってきた下書きには「職員が本人から離れたため見守りが不十分となり、本人が転倒した。今後は職員間で連携し、見守りを徹底する」とありました。メモには、倒れるところを見た人はいないと書いてあります。「見守りが不十分」も、メモにはない言葉です(説明のために作った架空の場面です)。この下書きは、どこまでをAIに書かせてよかったのでしょうか。

AIに任せてよいのは、メモにある事実を時刻の順に並べ、事故報告書の経過の欄に整えるところまでです。原因と再発防止策の欄は空けたまま返してもらい、関わった職員と管理者・サービス管理責任者が話し合ってから、人が書きます。ヒヤリハットの報告も同じで、AIには起きかけたことを短く整えてもらい、理由づけは書かせません。この記事では、架空のメモ1件を使って、AIへの頼み方と提出前の確かめ方をたどります。

事故の状況と対応は、運営基準で記録すると決まっている

障害福祉サービスの運営基準は、サービスの提供で事故が起きたときは、都道府県・市町村・利用者の家族等に連絡し、必要な措置をとるよう定めています。あわせて、事故の状況と、事故に際してとった処置を記録するよう求めています。この規定は居宅介護の条文(第40条)で、生活介護・就労継続支援B型・共同生活援助(グループホーム)などにも準用されています。この記事で挙げるほかの条文(第35条の2・第36条)も同じです。生活介護などでは、この記録は、サービスを提供した日から5年間保存する記録の一つに挙げられています(第75条第2項。各サービスで準用)。障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準 第40条・第75条(e-Gov法令検索)

厚生労働省の手引きは、利用者がけがをして受診するなどの事故が起きたときは、都道府県(政令市等)に事故報告書を提出することになるとしています。様式や報告の基準は都道府県によって違うものの、速やかに報告して指示を仰ぐ必要があること、支給決定をした市町村にも同様に報告することも書かれています。そのため、AIに様式から作らせず、提出先の自治体の様式と、事業所の内部の様式を使います。厚生労働省「障害者福祉施設等における障害者虐待の防止と対応の手引き」(令和6年7月、PDF)24・25ページ

事故報告書は、事業所の中では、同じことを起こさないための話し合いの材料になります。外に向けては、家族や市町村に、何が起きて事業所が何をしたかを説明する文書になります。どちらの読み手にも、誰が何を見て何をしたかという事実と、なぜ起きたと考えるかという推測を分けて示します。推測が経過の中に事実の形で入ると、確かめていない原因が記録として残ります。その後の話し合いも、その推測から始まってしまいます。

AIに頼むのは、その場の対応と第一報を済ませてから

AIで下書きを作るのは、本人の状態の確認と手当て・管理者への報告・家族への連絡を、事業所の手順で済ませたあとです。自治体への第一報も、下書きができるのを待たずに、自治体の決まりに沿って行います。報告書の文章を整える作業で、連絡を遅らせません。

経過を書いているうちに、説明のつかないあざや、職員の関わり方への疑問が出てくることがあります。そのときは、事故報告書を仕上げるのを待たずに、虐待の通報の手順に進みます。同じ手引きは、虐待を受けたと思われる障害者を見つけた職員は、速やかに市町村の障害者虐待防止センターに通報しなければならないとしています。事業所が通報の手順などを定めている場合は、上司や管理責任者にまず報告して通報してもらうこともできます。報告しても通報されないときは、職員が自ら通報すべきだとしています。虐待かどうかは第三者が認定するもので、事実が確認できていなくても通報できることも示しています(同手引き19ページ)。AIが事故として整った文にしても、それは疑いを打ち消す根拠にはなりません。

AIには、時刻の順のメモと、空けておく欄を一緒に渡す

ここで使うのは、架空の生活介護事業所で、職員が書いたメモです。実在の利用者や事業所の記録ではありません。利用者は「本人」、職員は「職員A」「職員B」と書いています。

名前を記号に置き換えても、それだけでAIに入れてよい情報になるわけではありません。個人情報保護法は、他の情報と容易に照合して特定の個人を識別できるものも個人情報に含めています。事業所の記録と照らせば誰のことか分かるメモは、記号にしても個人情報として扱います。入力してよい範囲の決め方は、後の「AIに入れてよい情報を、先に決めておく」で書きます。個人情報の保護に関する法律 第2条(e-Gov法令検索)

14:05 本人が「トイレに行く」と言い、職員Aが付き添って歩いた。
14:10 トイレを出たところで、職員Aが別の利用者に呼ばれ、本人から離れた。本人は廊下を一人で歩いていた。
14:12 物音がして、職員Bが廊下の床に座っている本人を見つけた。倒れるところは誰も見ていない。
14:13 本人は「おしりが痛い」と言った。頭を打ったかを聞くと「打ってない」と答えた。職員Bが看護職員を呼んだ。
14:20 看護職員が確認。右の腰に赤み。腫れはない。立ち上がって歩く様子は、ふだんと同じ。
14:35 職員Bが管理者に報告。15:00 管理者が家族に電話で連絡した。
その他: 廊下の床は乾いていた。本人は室内履きをはいていた。

経過の欄の頼み方の例

事業所が使ってよいと認めたAIサービスに、次のように頼む想定です。

障害福祉事業所(生活介護)の職員です。下のメモから、事故報告書の下書きを、下の様式で書いてください。
守ってほしいこと:
・メモに書いてあることだけを、時刻の順に書く。メモにない動き、理由、気持ちを足さない。
・誰も見ていない動きを、見たように書かない。「転倒した」「つまずいた」のように、見ていない動きを決めない。
・本人の言葉は「」に入れて、言ったとおりに書く。
・原因、職員の対応のよしあし、本人の状態の見立て(ふらつき、不注意など)を書かない。
・「原因」と「再発防止策」の欄は、【職員が記入】とだけ書く。
・メモから分からないことは書かずに、最後の「メモで分からない点」に箇条書きで書く。
・人は、メモのとおり「本人」「職員A」「職員B」と書く。様式:
事故の経過:
発見したときの本人の様子と対応:
家族・関係機関への連絡:
その他:
原因:
再発防止策:
メモで分からない点:
メモ:
(メモを貼る)

使える下書きの例

次のように返ってくれば、メモの行と一つずつ照らせます。説明のために作った想定の文で、実際のAIの出力ではありません。

事故の経過:
14:05 本人が「トイレに行く」と言い、職員Aが付き添って歩いた。
14:10 トイレを出たところで、職員Aが別の利用者に呼ばれ、本人から離れた。本人は廊下を一人で歩いていた。
14:12 物音がして、職員Bが廊下の床に座っている本人を見つけた。倒れるところは誰も見ていない。発見したときの本人の様子と対応:
14:13 本人は「おしりが痛い」と言った。頭を打ったかを聞くと「打ってない」と答えた。職員Bが看護職員を呼んだ。
14:20 看護職員が確認し、右の腰に赤みがあった。腫れはなかった。立ち上がって歩く様子は、ふだんと同じだった。 家族・関係機関への連絡:
14:35 職員Bが管理者に報告した。15:00 管理者が家族に電話で連絡した。 その他:
廊下の床は乾いていた。本人は室内履きをはいていた。 原因: 【職員が記入】
再発防止策: 【職員が記入】
メモで分からない点:
・14:10から14:12までの本人の動き
・家族に伝えた内容と、家族から聞いたこと
・市町村への報告が必要か、報告した日時

そのまま使えない下書きの例

一方、次のような文は、事故報告書らしく読めても使いません。メモだけを渡して「事故報告書を作って」と頼んだときに出てきやすい形です。これも説明のために作った想定の文です。

  • 「14:12 本人が廊下で転倒した。」: 倒れるところは誰も見ていません。メモにあるのは、床に座っている本人を見つけたことです。転んだのか、自分で座ったのかは、本人に聞いたことや、看護職員が確かめたことで分かった範囲だけを書きます。
  • 「頭部の打撲はなし。」: メモにあるのは、本人が「打ってない」と答えたことです。本人の言葉と、看護職員が確かめたことは分けて書きます。
  • 「本人は以前からふらつきがあり、転倒のリスクが高い。」: メモにない見立てです。本人の状態についての判断は、記録や看護職員の所見をもとに、話し合いの場で扱います。
  • 「職員Aが離れたため見守りが不十分となった。今後は見守りを徹底する。」: 原因と対策を、話し合う前にAIが決めています。特定の職員の落ち度として読まれる書き方でもあります。

原因と再発防止策は、話し合ってから人が書く

AIが空けて返した原因と再発防止策の欄は、関わった職員と、管理者・サービス管理責任者で話し合ってから書きます。話し合いの手がかりになるのは、下書きの最後の「メモで分からない点」です。この例なら、14:10から14:12までの本人の動きは誰も見ていません。本人に、そのときのことを聞ける範囲で聞きます。職員Aが呼ばれた場面では、本人の付き添いを誰かに引き継げたかを確かめます。

厚生労働省の手引きは、ヒヤリハットを活用する流れの例を載せています(同手引き25ページ。山口県のマニュアルからの引用)。状況や要因を洗い出し、問題点を明らかにして分析し、虐待防止委員会などで防止策を検討する、という順番です。事故報告書の原因の欄も、分かったことを集めてから、話し合いで書く欄です。AIが先に原因を書いてしまうと、この順番が逆になります。

再発防止策は、「見守りを徹底する」のような言葉ではなく、誰が・いつ・何をするかで書きます。たとえば「トイレの付き添い中に呼ばれた職員は、近くの職員に声をかけて交代してから離れる」のような書き方です(架空の例です)。対策が本人の動きを狭める内容になるときは、本人の話を聞いてから決めます。運営基準は、利用者や他の利用者の生命や身体を守るため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限する行為をしてはならないと定めています(同基準第35条の2)。手引きが載せている分析のポイントには、注記もあります。本人の尊厳を尊重した結果として事故などのリスクが高まるなら、どのような支援がよいかを利用者や家族とも話し合うことが大切だというものです(同手引き25ページ)。「一人で歩かせない」が再発防止策として書かれていたら、本人の暮らしと照らして見直します。

話し合いで決まった内容を、AIに文章として整えてもらえます。そのときは、決まった内容を箇条書きで渡し、「書いてあることだけを文にする。足さない」と条件を付けます。

ヒヤリハットは、短く書いて数を残す

ヒヤリハットは、事故には至らなかったものの、ひやりとした・はっとした出来事です。厚生労働省の手引きは、ヒヤリハットが見過ごされて誰からも指摘されずに放置されると、虐待や不適切な支援、事故につながるとしています。あわせて、早い段階で把握し、分析して対策をとることを求めています(同手引き24ページ)。書くのに時間がかかると、報告が出にくくなります。職員は、場所・時刻・起きかけたこと・その場でしたことを一行ずつ書けば足ります。AIに頼むなら、その一行を事業所の様式の欄に振り分けてもらう程度にします。

16:40 送迎車への乗車時。本人がステップで足を滑らせかけ、職員が腕を支えた。けがなし。

この一行に、AIが「職員の声かけが不足していた」「足元への注意が必要」のような理由や注意を足していたら、消します。ヒヤリハットを月に一度まとめて見るときも、場所や時間帯の分け方は職員が決めます。AIには、職員が付けた分類ごとに件数を数えるところを頼みます。AIで整えるために職員の書く量が増えるなら、ヒヤリハットにはAIを使わず、一行のまま出してもらいます。

提出する前に、メモと一文ずつ照らす

AIの下書きを事故報告書として出す前に、書いた職員と管理者が、次の四つを確かめます。

  1. 一文ずつ、メモのどの行かを指せるか: 指せない文は、AIが足した文として消す。
  2. 見ていないことを、見たように書いていないか: 「転倒した」「打撲なし」のように、見た人がいない動きや、確かめていない状態を決めていないか。
  3. 経過の欄に、原因や評価の言葉が入っていないか: 「不十分」「不注意」「ふらつき」「不穏」のような言葉は、経過から外し、話し合いの材料にする。
  4. 他の利用者が分かる書き方になっていないか: 家族や市町村に出す文書では、他の利用者の名前や、誰か分かる書き方をしない。

四つを確かめて残った下書きでも、報告書として確定させるのは、書いた職員と管理者です。直した所が多かった報告書は、どの文を消したかを控えておくと、次に頼むときの条件を足す材料になります。

AIに入れてよい情報を、先に決めておく

事故報告書には、本人の名前・障害の状態・けがの部位・家族とのやり取りが入ります。障害があることや病歴は、個人情報保護法で特に配慮が必要な情報(要配慮個人情報)にあたります(同法第2条第3項、同法施行令第2条)。

個人情報保護委員会は、個人情報を含むプロンプト(AIへの指示文)を生成AIサービスに入力する場合、利用目的の達成に必要な範囲内かを十分に確かめるよう注意を呼びかけています。あらかじめ本人の同意を得ずに個人データを入力し、それが応答の出力以外の目的で扱われる場合は、個人情報保護法の規定に違反する可能性があることも示しています。個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(PDF)

運営基準は、事業所の職員が業務で知った利用者や家族の秘密を、正当な理由なく漏らしてはならないとも定めています(同基準第36条)。どのAIサービスに、どの情報まで入れてよいかは、事業所が条件を決めて認めた範囲に限ります。決まっていないうちは、実際の事故やヒヤリハットのメモは記号に置き換えても入れず、この記事の架空のメモで頼み方を試します。

次の1件で、経過の欄だけをAIに頼んでみる

事故報告書の下書きをAIに頼むときに守る線は、経過と、原因・再発防止策の間にあります。AIにはメモにある事実を時刻の順に整えてもらい、原因と対策は話し合ってから人が書きます。取りかかる順番は、次の三つです。

  1. 次に事故報告書かヒヤリハットを書くとき、時刻の順のメモを先に作る。
  2. 事業所が入力を認めたAIサービスと範囲で、メモと様式を頼み方の例と一緒に渡し、原因と再発防止策の欄を空けて返してもらう。
  3. 返ってきた下書きを四つの点で確かめ、メモで分からない点を話し合いに持ち込む。

何件か試したら、下書きから消した文の数と、話し合いで新しく分かったことを見ます。そのうえで、ほかの職員にも同じ頼み方を広げるかを決めます。

事故報告書の様式も、報告の基準も、自治体や事業所によって違います。誰と・いつ原因を話し合うかが決まっていないと、AIの下書きで空けておいた原因の欄を、誰かが一人で埋めて、そのまま提出することになりかねません。

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