運営指導に備える障害福祉のAI記録 職員が確定した記録を、出欠や送迎の実績と照らしておく

支援記録の下書きを生成AIで作るようになった事業所では、運営指導の通知が届くと、AIが書いた記録をそのまま見せてよいのかが気になります。AIを使ったことを聞かれたら何と答えるのか、迷う管理者やサービス管理責任者もいるはずです。
厚生労働省の運営指導のマニュアルと確認項目(どちらも令和8年6月)を読むと、AIで作った記録についての記述はありません(2026年10月27日に全文を検索して確認)。運営指導で記録は、個別支援計画や、その日に実際に提供したサービスの実績と並べて見られます。AIで下書きする事業所が備えることは、職員が確定する前に、記録をその日の出欠・時刻・送迎・担当した職員の実績と照らしておくことです。あわせて、誰がいつ確定した記録かを残します。この記事では、架空の生活介護事業所の1日分を使って、AIへの頼み方と確定前の確かめ方をたどります。
運営指導では、記録が計画と提供の実績と並べて見られる
運営指導は、自治体が事業所を訪ねるなどして、運営やサービスの提供、報酬の請求を確かめる指導です。国の指導指針は、就労継続支援A型・B型と共同生活援助(グループホーム)の事業所には3年に1回以上、その他のサービスには原則として指定の有効期間内に少なくとも1回以上行うとしています。新しく指定を受けた事業所などには、別の実施時期も定められています。厚生労働省「指定障害福祉サービス事業者等指導指針」(令和8年6月8日、PDF)3ページ
同じ時期に出たマニュアルは、運営指導で確かめることを三つに分けています。サービスの実施状況、運営体制、報酬の請求です(同マニュアル14ページ)。サービスの実施状況では、書類の有無を一つずつ見るより、利用者がサービスの説明を受け、個別支援計画やサービス提供記録が作られ、それに基づいてサービスが提供されているかという一連の流れに重点を置くとしています。そのために、巡回で気になった利用者など3名程度を選び、関係する一連の文書を確かめます(同24ページ)。確かめる文書は原則として運営指導の前年度から直近の実績で、利用者の記録は特に必要な場合を除き3名以内とされています。ICTで書類を管理している事業所には、印刷を求めずにパソコンの画面で確かめるなどの配慮をするとも書かれています(同16ページ)。厚生労働省「指定障害福祉サービス事業者等に対する集団指導・運営指導マニュアル」(令和8年6月、PDF)
報酬の請求の確かめ方も、記録だけで完結しません。マニュアルは、基本報酬について、報酬基準に沿ったサービスが実際に提供されているかを確かめるとしています。運営基準で定めるサービス提供記録などの有無だけでは判断できない場合もあるとして、職員や利用者・家族の証言、勤務体制や勤務実績、個別支援計画、送迎記録などを合わせて確かめる必要があると書いています(同32ページ)。記録の不備だけでは基本報酬の返還の根拠にはならない一方、サービスを提供していないのに請求した場合は、不正請求として監査を経て返還を求められることがあるとも書かれています(同35ページ)。
記録そのものは、運営基準に定めがあります。サービスを提供した日・内容その他必要な事項を記録し、その記録について、利用者(支給決定障害者等)から提供したことの確認を受けることです。居宅介護の条文(第19条)を、生活介護(第93条)や就労継続支援B型(第202条)が準用しています。グループホームにも同じ趣旨の条文(第53条の2)が準用されています。国の確認項目でも、生活介護のこの項目では、サービス提供記録と、利用者等の確認が分かる記録を確かめる文書としています。障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準 第19条ほか(e-Gov法令検索)・厚生労働省「確認項目及び確認文書」(令和8年6月8日、PDF)28ページ
つまり、AIが書いたかどうかよりも先に、記録の時刻や内容が、出欠・送迎・勤務の実績や計画と合っているかが確かめられます。AIの文がどれだけ整っていても、その日の実績と食い違っていれば、記録からその日の提供を説明できません。
AIの下書きは、実績と食い違うことがある
ここで使うのは、架空の生活介護事業所の、ある利用者の1日分です。実在の利用者や事業所の記録ではありません。利用者は「本人」、職員は「職員C」と書いています。
その日の実績
提供日: 2026年10月6日
出欠: 9:40 来所(迎えの送迎)。13:30 退所(母の迎えで早退。通院のため)。
送迎: 行き あり/帰り なし。
担当: 職員C(勤務実績表で当日9:00〜18:00の出勤)。
職員Cのメモ
午前 さをり織り。30分ほど。途中で手を止めて、窓の外を見ていた。
「もうやめる」と言ったので、片付けを一緒にした。
昼食 ほぼ全部食べた。
13:30 母の迎えで早退(通院)。
そのまま使えない下書きの例
メモだけをAIに渡して「今日の支援記録を作って」と頼むと、空いたところをAIが事業所のいつもの流れで埋めることがあります。次の四つは、説明のために作った想定の文です。実際のAIの出力ではありません。
- 「10:00〜15:30 生活介護を提供した。」: 事業所の営業時間で時刻を埋めています。実績は9:40に来所し、13:30に退所です。
- 「帰りの送迎車内では落ち着いて過ごした。」: この日、帰りの送迎はありません。
- 「午後は散歩に参加し、笑顔が見られた。」: 13:30に早退するまでの間も含めて、散歩や笑顔を確かめられるメモも実績もありません。
- 「さをり織りに集中して取り組み、個別支援計画の目標に向けて前進した。」: メモにあるのは、途中で手を止めたことです。計画の目標にどこまで近づいたかは、モニタリング(計画の実施状況の確認)でサービス管理責任者が扱うことで、1日の記録でAIが決めることではありません。
もう一つ気をつけたいのは、毎日同じ文が並ぶことです。AIに同じ頼み方を続けると、「穏やかに過ごした」「作業に取り組んだ」のような文が、利用者や日を変えても繰り返されやすくなります。同じ文が並んだ記録からは、その日に本人が何をしたかを説明しにくくなります。
AIには、その日の実績を一緒に渡す
食い違いを減らすには、メモと一緒に、その日の実績をAIに渡します。実績の時刻と送迎はそのまま使わせ、メモにも実績にもないことは書かせません。事業所が使ってよいと認めたAIサービスに、次のように頼む想定です。
障害福祉事業所(生活介護)の職員です。下の「その日の実績」と「職員のメモ」から、今日のサービス提供記録の下書きを、下の様式で書いてください。 守ってほしいこと: ・提供日、来所と退所の時刻、送迎の有無は、「その日の実績」のとおりに書く。実績にない時刻を足さない。 ・活動と本人の様子は、メモに書いてあることだけを書く。メモにない活動、気持ち、理由を足さない。 ・本人の言葉は「」に入れて、言ったとおりに書く。 ・「集中して」「意欲的に」「穏やかに」のような、メモにない評価の言葉を使わない。 ・個別支援計画の目標にどこまで近づいたかを書かない。 ・メモと実績から分からないことは書かずに、最後の「確かめること」に箇条書きで書く。 ・「確定した職員」と「確定した日」の欄は空けておく。 ・人は、メモのとおり「本人」「職員C」と書く。様式:
提供日:
来所・退所:
送迎:
担当職員:
活動と本人の様子:
食事:
確かめること:
確定した職員:
確定した日: その日の実績:
(実績を貼る)職員のメモ:
(メモを貼る)
使える下書きの例
次のように返ってくれば、実績とメモの行と一つずつ照らせます。これも説明のために作った想定の文です。
提供日: 2026年10月6日
来所・退所: 9:40 来所。13:30 退所(母の迎えで早退。通院のため)。
送迎: 行き あり。帰り なし。
担当職員: 職員C
活動と本人の様子: 午前、さをり織りを30分ほど行った。途中で手を止めて、窓の外を見ていた。本人が「もうやめる」と言ったので、職員Cと一緒に片付けをした。
食事: 昼食はほぼ全部食べた。
確かめること:
・さをり織りを始めた時刻
・片付けのあと、昼食までの過ごし方
確定した職員:
確定した日:
「確かめること」に挙がった点は、職員Cが思い出せる範囲で書き足すか、分からないまま書かずにおきます。思い出せないことを、AIの推測で埋めません。
確定する前に、実績とメモの四つの点を照らす
下書きを記録として確定する前に、書いた職員が、出欠・送迎・勤務の実績と、自分のメモに照らして、次の四つを確かめます。一人で照らすのが難しい日は、サービス管理責任者などが一緒に見ます。
- 提供日と時刻: 提供日と、来所と退所の時刻が、出欠の記録と同じか。早退・遅刻・欠席が抜けていないか。
- 送迎: 行きと帰りの送迎の有無が、送迎の記録と同じか。
- 担当した職員: 記録に出てくる職員が、勤務表の予定だけでなく、出勤簿や勤務実績表でもその時間に出勤しているか。
- 内容: 活動と本人の様子がメモにあるか。評価の言葉や、計画の目標の達成を書いていないか。
運営基準は、サービスを提供した記録について、利用者から提供したことの確認を受けるよう定めています。生活介護などで準用する第19条は、記録を提供のたびに行うとしています。照らして確定する作業を、その日のうちに済ませる流れにしておけば、確認を後回しにせずに、AIの下書きではなく確定した記録で確認を受けられます。確認の受け方は、本人に合った方法を事業所で決めます。この順番は、条文の求めに沿って事業所が組む運用の提案です。
下書きと確定した記録を分け、確定した人と日を残す
サービス提供記録などは、サービスを提供した日から5年間保存する記録に挙げられています(同基準第75条第2項。生活介護などで準用)。運営基準は、書面で作ることを定めた記録の多くを、電磁的記録(パソコンなどで扱うデータ)で作り保存してよいとも定めています(同基準第224条)。記録ソフトや共有フォルダに記録を残す事業所は、運営指導でそのデータを見せることになります。
AIの下書きを使うなら、次の三つを事業所で決めておくと、運営指導で記録を見せながら説明しやすくなります。ここで確かめた条文やマニュアルが、この形を求めているわけではありません。事業所の決めごととしての提案です。
- 確定した記録の置き場所: 記録ソフトの確定済みの画面、紙の綴りなど、どこにあるものが確定した記録かを一つに決める。下書きを残す場合は、確定した記録と同じ場所に置かない。
- 確定した職員と日: 確定した職員の名前と、確定した日を、記録ごとに残す。記録ソフトに確定の操作や記名の欄があれば、それを使う。
- 確定したあとの修正: 確定した記録を直すときは、直した日・直した人・理由を残し、元の文を消さない。消したり書き換えたりできる仕組みしかない場合は、直した内容を別の欄に書き足す方法を決める。
AIに入れてよい情報も、先に決めておきます。運営基準は、職員が業務で知った利用者や家族の秘密を、正当な理由なく漏らしてはならないと定めています(同基準第36条)。どのAIサービスに、どの情報まで入れてよいかは、事業所が条件を決めて認めた範囲に限ります。決まっていないうちは、実際の利用者のメモや実績は入れず、この記事の架空の例で頼み方を試します。
運営指導の前の自己点検に、AI記録の照合を入れる
マニュアルは、基準に合っているかを事業所が自ら点検する自己点検を勧めています。業務管理体制で届け出ている法令遵守責任者の指揮のもとで行うことが期待されるとし、運営指導では少なくとも確認項目と確認文書について、事業所自身の点検が必要だとしています(同マニュアル18ページ)。
AIで下書きした記録があるなら、この自己点検に、記録と実績の照合を加えます。運営指導で記録を確かめる人数の目安に合わせて、利用者3人分・数日分の記録を、出欠・送迎・勤務の実績と照らします。時刻の食い違い・なかった送迎・メモにない活動・評価の言葉が見つかれば、どの頼み方や確定の手順で起きたかを確かめて直します。
AIをどう使っているかを説明する場面に備えて、事業所の利用ルールと確定の手順を書面にしておくと、管理者が替わっても同じ説明ができます。まず、どのAIサービスで何を作るか、何を入れてよいか、誰が何と照らして確定するか、の三つを書きます。利用するAIサービスが、入力した情報をどう扱うかの条件は、事業所で別に確かめておきます。
次の自己点検で、3人分の記録を実績と照らしてみる
AIの下書きを使う事業所で、運営指導の前に整えておくことは、記録を書く速さよりも、確定した記録と実績のつながりです。AIにはその日の実績を一緒に渡し、職員が実績とメモの四つの点を照らしてから確定し、確定した人と日を残します。取りかかる順番は、次の三つです。
- 次の自己点検で、利用者3人分・数日分の記録を、出欠・送迎・勤務の実績と照らす。
- 食い違いが見つかったら、AIに実績を渡しているか、確定の前に四つを照らしているかを確かめ、頼み方と手順を直す。
- 確定した記録の置き場所、確定した職員と日、確定したあとの修正の残し方を、事業所で決めて書面にする。
何日分か照らしたら、見つかった食い違いの件数と種類(時刻・送迎・活動・評価の言葉)を見ます。そのうえで、頼み方と確定の手順をほかの職員にも広げるかを決めます。
記録ソフト・出欠表・送迎表・勤務表が別々に管理されていると、どれを確定した記録として見せるか、誰が何と照らすかを決めるところで手が止まります。法人の中で事業所ごとに決め方が違えば、運営指導のたびに説明もそろいません。
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