COLUMN

コラム

障害福祉のBCP作成にAIを使うなら ひな形を埋める前に、利用者ごとの備えを書き出す

障害福祉のBCP作成にAIを使うなら ひな形を埋める前に、利用者ごとの備えを書き出す

業務継続計画(BCP)のひな形を生成AIに渡して空欄を埋めさせると、整った計画が短い時間でできあがります。ただ、その計画が自分の事業所の利用者に合っているとは限りません。昼の服薬、たんの吸引などの医療的ケア、家族とつながりやすい連絡手段は、ひな形にもAIにも書けない、事業所だけが知っていることだからです。

BCPの作成でAIに任せるのは、空欄を埋めることではなく、事業所で確かめる問いを出すことです。服薬・医療的ケア・連絡手段などの利用者ごとの備えは、AIに入れずに職員が事業所の中で書き出します。訓練のあとは、訓練の記録から見直す点を拾うところでAIを使います。この記事では、厚生労働省のガイドラインと運営基準を確かめたうえで、架空の生活介護事業所を例に、二つの頼み方と書き出す項目をたどります。

BCPは、研修・訓練と見直しまでが運営基準の決まり

運営基準は、感染症や非常災害が起きたときにサービスを続け、早く再開するための計画を業務継続計画とし、次の三つを事業者に求めています。計画を作り、それに従って必要な措置を講じること。職員に計画を知らせ、必要な研修と訓練を定期的に行うこと。計画を定期的に見直し、必要に応じて変えることです。居宅介護の条文(第33条の2)を、生活介護(第93条)、就労継続支援B型(第202条)、グループホーム(第213条)などが準用しています。障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準 第33条の2ほか(e-Gov法令検索)

この決まりには3年間の経過措置があり、令和6年度から義務になりました。あわせて令和6年度の報酬改定で、業務継続計画未策定減算が設けられています。感染症と非常災害のどちらか、または両方の計画がない場合や、計画に従った措置を講じていない場合に、基本報酬が減算されます。減算は、施設入所支援・共同生活援助などは所定単位数の3%、生活介護・就労継続支援・居宅介護などは1%です。就労選択支援には、令和9年3月31日まで減算を適用しない経過措置があります。障害福祉サービス等報酬改定検討チーム「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の概要」(令和6年2月6日、PDF)15〜16ページ

国のQ&Aは、計画の周知・研修・訓練・見直しをしているかどうかは減算の要件ではないとしたうえで、これらも適切に行うよう求めています。厚生労働省「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定等に関するQ&A VOL.1」(令和6年3月29日、PDF)6ページ 問14

作るときの手がかりとして、厚生労働省は自然災害のガイドラインとひな形を公開しています。ガイドラインに書かれた対応の項目が、ひな形の「対応事項」に当たり、事業所ごとの具体的な対応を検討して書き込む形です(同ガイドライン3ページ)。ガイドラインは、自らを「BCP作成に最低限必要な情報」を整理したものと位置づけています。そのうえで、作ったあとも検討と修正を重ねて、事業所の状況に合った内容にしていくことが望ましいとしています(同1ページ)。感染症についても、別のガイドラインとひな形があります。厚生労働省「障害福祉サービス事業所等における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」(令和3年3月、PDF)・厚生労働省「障害福祉サービス事業所等における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン等について」

ひな形をAIに埋めさせると、利用者ごとの備えが抜けやすい

ここからは、架空の生活介護事業所を例にします。定員20人、送迎あり、日中のみの事業所です。実在の事業所や利用者の情報ではありません。

事業所が把握している利用者の状況
・昼食後に服薬がある人が5人。そのうち2人は、事業所で薬を預かっている。
・日中にたんの吸引が必要な人が1人。吸引器は充電式。
・家族への連絡は、電話よりメールのほうがつながりやすい家庭が3件。
・食物アレルギーがある人が2人。

この状況を渡さずに、ひな形の対応事項と「生活介護、定員20人」だけをAIに渡して「埋めて」と頼むと、次のような文が返ることがあります。説明のために作った想定の文で、実際のAIの出力ではありません。

  • 「重要業務は、食事・排泄・与薬とする。」: ガイドラインに挙がった例のままです。この事業所では吸引も止められない業務ですが、入っていません。ガイドラインは、医療依存度の高い利用者が多い事業所では医療的ケアも重要業務に含まれるとしています(同27ページ)。電気が止まったときの項では、自家発電機で動かす設備の優先順位の例として、たんの吸引などの医療機器を最優先に挙げています(同15ページ)。吸引器の充電がどれだけもつかも、この文からは分かりません。
  • 「飲料水と食料は、利用者と職員の3日分を備蓄している。」: 事業所が実際に備えているかを確かめていない量を、あるものとして書いています。
  • 「緊急連絡先は、利用者台帳により電話で連絡する。」: メールのほうがつながりやすい3件が抜けています。通所系の事業所には、複数の連絡先や連絡手段を把握しておくこと、利用者の安否確認の方法を特定相談支援事業所と整理しておくことが望ましいとされています(同33ページ)。
  • 「避難が必要なときは、職員が利用者を安全な場所へ誘導する。」: 預かっている薬を誰が持ち出すかが書かれていません。ガイドラインは、服薬の管理が必要な利用者について、薬の持ち出しを忘れないよう検討しておくとしています(同25ページ)。利用者が避難先の事業所などで支援を受けるときに渡す情報も抜けています。ガイドラインは、最低限必要な情報を「利用者カード」などにまとめ、アレルギーの情報も平常時から取りまとめておくとしています(同31ページ)。

AIが手がかりにできるのは、渡されたひな形の項目と、BCPについての一般的な知識です。事業所の利用者、備蓄、職員の人数は、渡されなければ知りません。空欄が目の前にあると、AIは一般的な文や、確かめていない量で埋めやすくなります。埋まった計画は完成して見えるので、抜けている所に気づきにくくなります。

AIには、ひな形を埋めさせず、確かめる問いを出させる

AIには、空欄の答えではなく、事業所で確かめて書き込むための問いを出させます。事業所が使ってよいと認めたAIサービスに、次のように頼む想定です。利用者の情報は入れません。

障害福祉事業所(生活介護、定員20人、送迎あり、日中のみ)の管理者です。厚生労働省の「自然災害発生時における業務継続計画ひな形」を使って、事業所の業務継続計画(BCP)を見直します。
下に貼る「対応事項」の項目ごとに、この事業所で職員が確かめて書き込むための問いを挙げてください。
守ってほしいこと:
・答えや記載例は書かない。問いだけを挙げる。
・事業所の設備・備蓄・職員の人数を、あるものとして書かない。
・誰が、何を、どこで、いつまでに、を答えれば済む問いにする。
・利用者ごとに答えが変わる問い(服薬、医療的ケア、連絡手段、食事の配慮など)には、問いの最後に「(利用者ごと)」と付ける。
・利用者の名前や病名を聞く問いにしない。
・一つの項目につき、問いは5つまでにする。対応事項:
(ひな形の項目名と説明を貼る)

重要業務と避難の項目について、次のような問いが返れば、そのまま確かめる作業に使えます。これも説明のために作った想定の文です。

重要業務の継続
・電気や水道が止まっても、止められない業務は何か。
・その業務を、最も少ない場合に何人の職員で続けるか。
・止められない医療的ケアはあるか。誰が、どの機器で行っているか。(利用者ごと)
・機器の電源が切れたとき、何時間もつか。代わりの方法はあるか。(利用者ごと)避難
・服薬がある人の薬を、誰が、何に入れて持ち出すか。(利用者ごと)
・利用者が避難先で支援を受けるとき、渡す情報はどこにあるか。(利用者ごと)

印のない問いは、管理者と職員で話して答え、ひな形に書き込みます。「(利用者ごと)」の付いた問いは、次の節のとおり、職員が事業所の中で答えます。すぐに答えられない問いは、まず答えが今の記録にないか、知っている職員がいないかを確かめます。それでも答えが決まっていなければ、事業所でまだ備えが決まっていない所です。その問いを、見直しで話し合う議題にします。

利用者ごとの備えは、AIに入れずに事業所の中で書き出す

服薬や医療的ケアは、利用者の心身に関わる情報です。運営基準は、職員が業務で知った利用者や家族の秘密を、正当な理由なく漏らしてはならないと定めています(同基準第36条第1項)。個人情報保護委員会は、事業者が生成AIサービスに個人情報を入れる場合、利用目的の範囲内かを十分に確かめるよう注意を促しています。本人の同意なく入れた個人データが、応答の出力以外の目的で扱われると、法令違反となる可能性があるとして、機械学習に使われないことなどを確かめるよう求めています。個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日、PDF)2ページ

どのAIサービスに、どの情報まで入れてよいかは、事業所が条件を決めて認めた範囲に限ります。決まっていないうちは、利用者ごとの備えはAIに入れず、事業所の記録ソフトや紙で書き出します。書き出す項目は、ガイドラインの記述に沿って、次の四つから始めます。

  1. 服薬: 事業所で飲む薬と時間、預かっている薬の置き場所、避難のときに持ち出す職員。
  2. 医療的ケア: ケアの内容、使う機器と電源がもつ時間、行える職員。停電などでケアが続けられないときの対応は、職員だけで決めず、医師の指示や個別の計画に沿って、医療職と確かめる。そのときの連絡先も書く。
  3. 連絡と安否確認: 家族などの連絡先を複数と、つながりやすい手段(電話・メールなど)。安否確認のときの、相談支援事業所との分担。
  4. 避難先に渡す情報: 避難先でケアを続けるために最低限必要な情報と、食物アレルギー。ガイドラインの「利用者カード」のように、持ち出せる形にまとめる。

避難先の事業所などに情報を渡すことがあるなら、どの情報を渡すかを、まず本人の意向を聞いて確かめ、必要に応じて家族とも確かめておきます。運営基準は、ほかの事業者に利用者や家族の情報を提供するときは、あらかじめ文書で同意を得ておくよう定めています(同基準第36条第3項)。

書き出した内容を、BCPの本文にすべて書き写す方法もありますが、利用者が替わるたびに計画を直すことになります。BCPには、書き出した一覧や利用者カードの置き場所、更新する職員と時期、災害のときに誰が持ち出すかを書いておく方法もあります。ここで確かめた条文やガイドラインが、この分け方を求めているわけではありません。利用者の情報を一か所で更新するための、事業所の決めごととしての提案です。

研修・訓練の記録から、見直す点をAIで拾う

運営基準は、研修と訓練を定期的に行い、計画を定期的に見直すよう求めています(同基準第33条の2第2項・第3項)。ガイドラインは、計画の内容に沿って訓練(シミュレーション)を行い、訓練などで洗い出された課題を計画に反映させるとしています(同ガイドライン13ページ)。回数は、条文とガイドラインには書かれていませんが、国の解釈通知に示されています。居宅介護では、BCPの研修を定期的(年1回以上)に開き、研修の内容を記録すること、訓練を定期的(年1回以上)に行うことが示されています。ほかのサービスの回数は、解釈通知のそのサービスの項と、指定を受けた都道府県や市の資料で確かめてください。厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準について」新旧対照表(PDF)59ページ

訓練のあとの記録は、AIで見直す点を拾う材料になります。架空の事業所で行った訓練の記録が、次のようだったとします。利用者や家族の名前は書いていません。

訓練の記録
実施日: 2026年9月12日 14:00〜14:40
想定: 震度6弱の地震。電気が止まった。送迎の車は2台とも事業所にある。
参加: 職員6人(非常勤の職員2人は不参加)、利用者14人
・家族への安否の連絡に35分かかった。2件は電話がつながらず、メールで連絡した。
・預かっている昼の薬の置き場所を、参加した職員のうち2人が知らなかった。
・吸引器の充電の残りを確かめる人が決まっていなかった。
・非常勤の職員2人には、あとで資料を渡す予定。

名前を書かなくても、利用者の少ない事業所では、ケアの内容から誰のことか分かる場合があります。入力の条件が決まっていないうちは、この架空の記録で頼み方を試します。

入力が認められていて、利用者を特定できる情報を除いた記録であれば、次のように頼んでAIに渡します。

下の訓練の記録から、業務継続計画(BCP)で見直す点を挙げてください。
守ってほしいこと:
・記録に書いてある出来事だけを元にする。記録にない原因や、うまくいった点を足さない。
・見直す点ごとに、元になった記録の行をそのまま書き添える。
・BCPのどの項目(連絡、重要業務、避難、研修・訓練など)に関わるかを書く。
・直し方は決めずに、「誰が、何を決めるか」が分かる問いの形で書く。
・時間が長い・短いの判断はしない。訓練の記録:
(記録を貼る。利用者や家族の名前は書かない)

次のように返ってくれば、記録の行と一つずつ照らせます。これも説明のために作った想定の文です。

・連絡: 電話がつながらない家庭に、どの手段で、誰が連絡するかを、誰が決めるか。(元の記録: 2件は電話がつながらず、メールで連絡した。)
・重要業務/避難: 預かっている昼の薬の置き場所を、全ての職員が知っておくために、誰が何を決めるか。(元の記録: 預かっている昼の薬の置き場所を、参加した職員のうち2人が知らなかった。)
・重要業務: 吸引器の充電の残りを、誰が、いつ確かめるか。(元の記録: 吸引器の充電の残りを確かめる人が決まっていなかった。)
・研修・訓練: 不参加の職員に、訓練の内容をどう伝え、伝えたことをどう残すか。(元の記録: 非常勤の職員2人には、あとで資料を渡す予定。)

安否の連絡にかかった35分は、記録にある事実です。それが長いかどうかは、事業所の利用者と職員の人数によって変わるので、AIには判断させていません。問いに答えて計画を直すのは、管理者と職員です。計画を直したら、直した日と、どの訓練の記録から直したかを残しておくと、次の見直しで経緯をたどれます。

次の見直しは、「利用者ごと」の問いから答えていく

BCPの作成でAIを使うなら、ひな形の空欄を埋めさせずに、事業所で確かめる問いを出させます。利用者ごとの備えは職員が事業所の中で書き出し、訓練のあとは記録から見直す点を拾わせます。取りかかる順番は、次の三つです。

  1. ひな形の対応事項をAIに渡して、確かめる問いを出させる。利用者の情報は入れない。
  2. 「(利用者ごと)」の付いた問いに職員が答え、服薬・医療的ケア・連絡と安否確認・避難先に渡す情報の四つを事業所の中で書き出す。
  3. 次の訓練のあと、見直す点をAIに拾わせ、管理者と職員で決めて計画を直す。AIに渡すのは、入力が認められ、利用者を特定できる情報を除いた記録に限る。条件が整わないうちは、架空の記録で試す。

次の訓練が終わったら、書き出した答えのうち訓練で実際に使えたものと、まだ答えられない問いを見ます。答えられない問いが残っていれば、それが次の見直しで話し合う議題です。

BCPは感染症と自然災害の両方に備える必要があり、一つの計画にまとめるか分けるかも事業所で決めます。通所・訪問・入所で、ガイドラインが示す項目も違います。法人に複数の事業所があると、利用者ごとの備えをどの書式に書き、誰が更新するかを決めるところで手が止まります。AIにどこまで情報を入れてよいかの決まりがなければ、書き出しの作業も進みません。

BCPの作成や見直しにAIをどう使うかを、事業所の利用者に合わせて考えたいときは、株式会社サクポートの無料相談をご利用ください。今のBCPと訓練の記録の残し方を伺いながら、AIに出させる問いの作り方、利用者ごとの備えの書き出し方、訓練の記録から見直す流れを一緒に検討できます。

BCPの見直しにAIをどう使うか、無料で相談する

コラム一覧へ戻る