就労定着支援の企業への連絡をAIで下書きする 面談のメモは記録に残し、伝えてよいことは本人と決める

月1回の面談の翌朝、利用者が働く会社の人事担当者から「先日の面談で、Tさんの様子はどうでしたか」とメールが届きます。手元には、面談で聞いた仕事のこと、体調のこと、家のことまでが並んだメモがあります。これを生成AIに貼って「会社向けの報告にして」と頼めば、丁寧なメールがすぐにできそうです。
けれども、面談のメモをまるごと渡すと、本人が会社に話していない薬や家族のことまで、丁寧な文になって連絡に入ることがあります。誰も決めていない「業務量の調整のお願い」が足されることもあります。面談で聞いた話を企業へ伝えるのは、本人の情報を会社へ渡すことです。そこで、面談の終わりに、メモの一行ずつを「企業へ伝える」「伝えない」「本人が自分で伝える」に本人と分けておきます。AIに渡すのは「企業へ伝える」と決めた行だけにして、記録は連絡文とは別に作ります。下書きを送るのは、本人に見せてからです。この記事では、架空の利用者との面談を例に、分け方と頼み方、送る前の確かめ方をたどります。
面談の記録と企業への連絡は、宛先も中身も別のもの
就労定着支援は、就労移行支援などを利用したあと一般の会社に雇われ、働き続けて6か月を過ぎた人が使うサービスです。厚生労働省「障害福祉サービスの内容」
就労定着支援の事業者は、利用者を雇用した事業主や医療機関などと連絡調整をし、利用者や家族の相談に応じると定められています(第206条の8第1項)。利用者との面談(対面か、テレビ電話などの対面に相当する方法)は月1回以上で、事業主を月1回以上訪ねて職場での様子をつかむことは努力義務です(同条第2項)。提供した支援の内容は記録し、5年間保存します(第206条の11第2項、第206条の12で準用する第19条第1項)。業務上知り得た利用者や家族の秘密を、正当な理由なく漏らしてはならないという定めもあります(第206条の12で準用する第36条第1項)。障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準 第206条の8・第206条の11・第206条の12(e-Gov法令検索)
国の解釈通知は、利用者を雇用する事業主も関係機関の一つに挙げたうえで、関係機関と利用者の個人情報を共有するときは、あらかじめ書面で利用者の同意を得るなど、適切な手続きを経るよう求めています(206ページ)。課題が出たときも、就労定着支援員が本人に代わって解決するのではありません。本人の主体的な取組を支える姿勢が重要だとしています(207ページ)。障害を開示せずに就職し、支援員が事業主に接触できない場合があることにも触れています(208ページ)。他の支援機関と情報を共有した場合に、その連携の状況をケース記録などに残すことも、通知が求める事項です(211ページ)。厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準について」(令和7年3月31日改正の新旧対照表、PDF)206〜208・211ページ
毎月の支援の内容を書いた報告書(支援レポート)は、月1回以上、利用者に渡すことが報酬の要件です。国の通知は、この報告書を、本人の同意のもとで事業主とも共有することが望ましいとしています。一方で、利用者と同意した内容以外を事業主と共有することは難しいこと、障害を開示せずに働いている人では事業主との共有は困難なことも書かれています。プライベートに関わる内容で、本人が事業主との共有を望まないものは、報告書に書く必要はない、というのが通知の考え方です。厚生労働省「就労定着支援の実施について」(障障発0329第6号、令和6年3月29日、PDF)6〜8ページ
個人情報保護法も、法令に基づく場合などを除き、あらかじめ本人の同意を得ずに個人データを第三者に提供してはならないとしています(第27条第1項)。病歴は、取扱いに特に配慮を要する「要配慮個人情報」の例に挙げられています(第2条第3項)。個人情報の保護に関する法律 第2条・第27条(e-Gov法令検索)
つまり、面談の記録は事業所が残すもので、支援に必要なことを、本人が話したこと・支援員が見たこと・支援員の見立てに分けて書きます。企業への連絡は、そこから本人が会社へ伝えてよいとしたことだけを選んで送るものです。同じメモから作っても、宛先も、入れてよい中身も違います。
面談メモをまるごと渡すと、本人が伝えていないことまで連絡文に入る
ここからは、架空の利用者を例にします。実在の人ではありません。Tさんは30代で、うつ病で通院しています。就労移行支援を経て、障害を開示して、食品の物流センターで事務補助として働き始め、8か月目です。勤務は平日の1日6時間で、月1回、仕事のあとに事業所の面談室で就労定着支援員と会っています。支援員は、面談で聞いたことを次のメモに残しました。
Tさん(架空) 11月の面談メモ仕事は伝票の入力と在庫表の確認。入力には慣れてきた。 先週から、返品の受付の作業が増えた。手順は口頭で一度説明されただけで、まだ覚えられない。 本人「手順をメモでもらえると助かる。でも、自分から上司に言うのはまだ言いにくい」 昼休みは休憩室がにぎやかで、休めた気がしない。 先月、主治医と相談して薬が一つ変わった。朝の眠気は少し減った。 夜は12時ごろ寝て6時に起きる。週末は昼まで寝てしまう。 金曜の午後は疲れて、入力のミスが出やすいと本人は感じている。 母が入院していて、週末は見舞いに行っている。 有給休暇の取り方が分からない。人事に自分で聞いてみると本人。支援員の見立て: 返品の受付が増えてから、疲れが強い様子。次回、作業の量を一緒に振り返る。
このメモをまるごとAIに貼り、「企業の人事担当者へ、面談の報告メールを作って」と頼むと、次のような下書きが返ることがあります。説明のために作った想定の文で、実際のAIの出力ではありません。
件名: Tさん 面談のご報告いつもお世話になっております。先日のTさんとの面談について、ご報告いたします。
・業務: 伝票入力には慣れてきています。新しく担当した返品受付の手順が覚えにくいとのことです。
・体調: 先月、服薬の調整があり、朝の眠気は改善傾向です。睡眠のリズムにやや乱れが見られます。
・休憩: 休憩室が騒がしく、十分に休めていないようです。
・ご家族の入院もあり、疲労が蓄積している様子です。金曜午後はミスが増える傾向があります。
つきましては、業務量の調整についてご検討いただけますと幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。
文としては整っていますが、元のメモと比べると、困る点が四つあります。
- 会社に伝えると決めていない行が入っている: 薬が変わったこと(5行目)、寝る時間と起きる時間(6行目)、母の入院(8行目)。
- 本人の感じ方が、事実の報告に変わっている: 「ミスが出やすいと本人は感じている」(7行目)が「ミスが増える傾向があります」に、「休めた気がしない」(4行目)が「休憩室が騒がしく、十分に休めていない」になっています。
- 誰も決めていない依頼と推測が足されている: 「業務量の調整についてご検討いただけますと幸いです」は、本人も支援員も決めていないお願いでした。10行目は、次の面談で作業の量を本人と振り返るとしただけです。「疲労が蓄積している様子」は、支援員の見立てと家族のことをつないだ推測になっています。
- 本人の具体の希望が消えている: 3行目の「手順をメモでもらえると助かる」が、「手順が覚えにくい」という困りごとだけになりました。
この想定の例では、AIは「報告」を頼まれたので、面談のメモにあることを漏れなく、丁寧に伝えようとしています。会社が受け取るのは、本人の病気の治療と家族の事情、それに職場の休憩室への評価です。本人がそれを知らないまま送られれば、次の面談で同じように話してもらえるかが揺らぎます。上司から「休憩室が騒がしいそうですね」と声をかけられたTさんは、どこからその話が出たかに気づくでしょう。
伝えてよいかは、面談の終わりに本人と一行ずつ決める
会社へ何を伝えるかを決めるのは、本人です。支援員の役目は、選びやすい問い方で、一行ずつ確かめることです。面談の最後に、次の順で進めます。
- メモを本人と読み返す: 支援員が書いたメモを本人に見せるか読み上げ、聞き違いや、本人の言いたかったことと違う書き方があれば、その場で直します。
- 一行ずつ聞く: 「全部会社に伝えていいですか」とまとめて聞くと、本人が断りにくい場合もあるでしょう。「この返品の受付の話は、会社に伝えてもいいですか」「自分で上司に言いますか、私から伝えますか」と、一つの話に限って聞きます。
- 三つに分ける: 答えに沿って、行ごとに「企業へ伝える」「伝えない」「本人が自分で伝える」の印をつけます。迷う行は「伝えない」にしておき、次の面談でもう一度聞くのが無理のない進め方です。
- 伝える行は、本人の言い方で書く: 会社に伝える文は、本人が言ってほしい言い方で、メモの横に書き足しておきます。言い方まで決めておけば、AIが言い換える余地は小さくなります。
Tさんの場合、面談の終わりに次のように決まりました。
- 企業へ伝える: 2行目(返品の受付が増え、手順は口頭で一度説明された)。3行目の希望は、本人の言い方で「返品の受付の手順を、メモでもらえると助かります」。4行目は、休憩室の評価にならないよう、本人の言い方で「昼休みは、静かなところで休めると助かります」。
- 本人が自分で伝える: 1行目(慣れてきたことは、自分で上司に言える)、7行目(金曜の午後のことは、自分で上司に話してみる)、9行目(有給休暇は、人事に自分で聞く)。
- 伝えない: 5行目(薬)、6行目(睡眠)、8行目(母の入院)、10行目(支援員の見立て。次の面談で本人と振り返る)。
本人が「全部任せます」と言うこともあります。その場合でも、支援員が伝えるつもりの行を一つずつ示し、本人が答えやすい方法(言葉で答える、紙の印を指す、など)で、行ごとに伝えてよいかを確かめます。確かめきれない行や、本人が迷う行は送りません。障害を開示せずに働いている人では、そもそも会社へ連絡しない場合があることも、先に書いたとおりです。面談ごとのこの確かめは、同意書の手続きの代わりにはなりません。同意書で企業との連絡の相手・目的・範囲を確かめたうえで、その月の面談のどの話を伝えるかを面談ごとに本人と決めておくと、行き違いが起きにくくなります。
記録と連絡文は、AIに別々に頼む
AIに頼む仕事は、二つに分けます。一つは、面談のメモから事業所の記録を作ることです。もう一つは、「企業へ伝える」の行だけから連絡文を作ることです。一度に頼むと、記録に入れるべきことが連絡文にも流れ込みます。
面談のメモには、通院や薬のような病歴に当たる情報と、家族の入院のような家族の事情が入ります。AIに渡すメモの名前は、記号に置き換えるのが前提です。ただ、記号に置き換えても、勤め先や仕事の内容、病気の様子の組み合わせから、誰のことか分かる場合があります。記号に置き換えるのは対策の一つで、それだけで入力してよいことにはなりません。個人情報保護委員会は、事業者が生成AIサービスに個人情報を含む指示を入力するときは、利用目的の範囲内かを十分に確かめるよう注意を促しています。本人の同意なく入力した個人データが応答の出力以外の目的で扱われると法令違反となる可能性があるとして、機械学習に使われないことなどを確かめるよう求めています。個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日、PDF)2ページ
どのAIサービスに、どの情報まで入れてよいかを決めるのは、法人です。AIサービス側の入力情報の扱いも確かめたうえで、法人が認めた範囲に限って使います。決まっていないうちは、この記事の架空のメモで頼み方を試してください。認められたサービスで連絡文を頼むなら、次のように書く想定です。
障害福祉サービスの就労定着支援で、利用者が働く会社の担当者へ送る連絡の下書きを作ります。
下の「企業へ伝える」の文だけを使ってください。この文は、面談の終わりに本人と決めたものです。
守ってほしいこと:
・文の意味を変えない。「 」の中は本人が決めた言い方なので、一字も変えずに使う。
・下にない話(体調、通院、薬、睡眠、家族のこと、支援員の見立てなど)を足さない。
・会社へのお願いは、「企業へ伝える」の文にあるものだけにする。新しい依頼や評価を足さない。
・利用者は「Tさん」と書く(名前を置き換えた記号。送る前に職員が実名に直す)。
・宛名、あいさつ、結びのあいさつは入れてよい。次回の訪問の提案のような、新しい用件は足さない。
・最後に、使った文の番号を(使った文: 2、3)のように書く。
企業へ伝える:
2. 先週から返品の受付の作業が増えた。手順は口頭で一度説明された。
3. 本人の言い方「返品の受付の手順を、メモでもらえると助かります」
4. 本人の言い方「昼休みは、静かなところで休めると助かります」
次のように返ってくれば、確かめる材料に使えます。これも説明のために作った想定の文です。
件名: 面談のご報告(Tさん)いつもお世話になっております。先日のTさんとの面談で、Tさんから会社にお伝えしてほしいと言われたことをお送りします。
・先週から返品の受付の作業が増え、手順は口頭で一度ご説明いただいたと伺いました。Tさんからは「返品の受付の手順を、メモでもらえると助かります」とのことです。
・Tさんから「昼休みは、静かなところで休めると助かります」とのことです。
今後ともよろしくお願いいたします。
(使った文: 2、3、4)
記録のほうは、法人が認めたサービスと入力の範囲を確かめたうえで、記録を作るのに必要な行だけを渡し、本人が話したこと・支援員が見たこと・支援員の見立て・次の面談までにすることに分けて書かせます。本人の感じ方は「本人は〜と感じている」のまま残し、事実のように言い換えないことも頼み方に入れておきます。会社へ伝える範囲を本人と決めたことも、記録に入れる一行です。
送る前に、下書きを本人に見せる
AIの下書きは、そのまま送りません。支援員が次の順で確かめます。
- 文の出どころ: 下書きの文が一つずつ、「企業へ伝える」の行のどれから来たかを見ます。最後の「使った文」の番号と中身が合っているかも、ここで見る点です。
- 足された文: どの行にもない依頼・評価・推測(「ご検討いただけますと幸いです」「〜の様子です」など)は消します。あいさつと結びのあいさつは、新しい用件を含んでいなければ、そのままでかまいません。
- 本人の言い方: 「 」の中が、本人と決めた言い方と一字ずつ同じかを見ます。記号に置き換えた名前を実名に戻すのも、ここです。
- 本人に見せる: 送る前に、本人に下書きを見せるか読み上げます。面談のあとにAIで作った下書きなら、翌日の電話やメッセージで確かめる形でもかまいません。本人から直したいところが出たら、そのとおりに直します。
- 記録に残す: 送った日・相手・中身を、面談の記録に書きます。会社から返ってきた話(手順をメモにしてもらえるか、など)を記録に書き、次の面談で本人に伝えるところまでが、この手順です。
月ごとの報告書(支援レポート)も、同じ考え方で作れます。報告書は本人に渡すもので、記録がもとになります。会社と共有する場合に入れるのは、本人が同意した内容だけです。本人が会社との共有を望まないプライベートな話は、報告書に書く必要がないとされています。
次の面談は、企業へ伝えることを本人と決めてから終える
就労定着支援で企業への連絡文をAIで下書きするなら、面談のメモをまるごと渡しません。面談の終わりに本人と「企業へ伝える」と決めた行だけを渡し、下書きは送る前に本人に見せます。記録は、連絡文とは別に作ります。取りかかる順番は、次の三つです。
- 次の面談の終わりに、メモを本人と読み返し、一行ずつ「企業へ伝える」「伝えない」「本人が自分で伝える」に分ける。伝える行は、本人の言い方で書き足す。
- 名前を記号に置き換えて、法人が認めたAIサービスに、「企業へ伝える」の行だけで連絡文を下書きさせる。記録は連絡文とは別に頼む。条件が整わないうちは、架空のメモで試す。
- 下書きの文を一つずつ「企業へ伝える」の行と照らし、本人に見せてから送る。送った日・相手・中身を記録に書く。
振り返るときは、送った連絡文に、本人と決めていない文が入っていなかったかを見ます。本人が、会社に何が伝わったかを知っていたかも、振り返る点です。
企業との連絡についての同意書の書き方や、面談ごとの確かめ方は、法人ごとに違います。通院や家族の事情のような情報を、どのAIサービスにどこまで入れてよいかも、職員ごとの判断に任せず、法人で決めておきたいところです。
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