コラムCOLUMN
支援記録をAI音声入力で作成するには
利用者の方々が帰ったあとの事務室。パソコンを開いて、今日あったことを思い出すところから記録が始まります。一人分を書き終えるころには、窓の外はもう暗い。
音声入力が効くのは、この時間です。ただし効く範囲は下書きまで。話した言葉がそのまま支援記録になるわけではありません。記録の文に整え、職員が内容を確認して確定する工程は残ります。裏を返せば、記録作成を「話す・整える・確認して確定する」の3つに分けてしまえば、音声入力を入れる場所は1か所に絞れます。
本記事でいうAI音声入力は、話した言葉を文字にする音声認識に、生成AIによる文章の整形(整文)を組み合わせた使い方を指します。どちらまで備わっているかはツールによって違い、文字にするところまでの製品もあります。
この記事で扱うのは、その工程の分け方と、話し始める前に事業所で決めておく4つの運用ルールです。後半には、発話から確定した記録文までの変換を追った架空のワンシーンと、実在の利用者情報を使わずに試す手順を置きました。読み終えるころに、自事業所で最初に音声入力を試す場面が1つ浮かんでいれば、次の一歩は踏み出せます。
工程の分け方と4つのルールは、このあと順に示します。ただ、自事業所の記録の流れに当てはめる段階で手が止まることもあるでしょう。どの場面から試すか、確認の工程を誰に持たせるか。ここは相談の対象にもなります。相談の前に、1日の記録件数と、記録に取りかかっている時間帯だけメモしておくと、話が早く進みます。
AI音声入力で支援記録はどこまで作れるのか
作れるのは、下書きまでです。
本記事で扱う使い方では、技術が動くのは2か所。話した言葉を文字にする音声認識と、その文字を読める文章に整える生成AIの整文です。整文まで備えるツールなら、「今日は午後の作業で」と話せば文字が並び、言い直しや重複が落ちた文章が返ってきます。ここまでは道具の仕事といえます。
その先が人の仕事になります。書かれた内容が、その日の様子と合っているか。事実として起きたことと、職員がそう受け取ったという解釈が、読み分けられる書き方になっているか。この確認を経て、はじめて記録になります。
AI音声入力は、支援記録の「書く時間」を減らす道具であって、「記録を確定する責任」を代わるものではありません。
線を引いておきます。整文まで備えるツールを前提にすると、道具の側で終わる作業はここまでです。
- 話した言葉を文字にする
- 言い直しや重複を落として、読める文章の形に整える
- 長い記録から要点を拾う
ここから先は、職員の手に残ります。
- その日の本人の様子をどう見たかの判断
- 事実として起きたことと、職員がそう受け取ったことの切り分け
- 記録としての確定
制度の側にも定めがあります。指定基準(省令)には、サービスの提供に関する記録の整備・保存についての定めが置かれています。ただし、日々の支援内容を書き留めるケース記録がどこまでその対象に含まれるか、保存期間をどう扱うかは、サービス種別や自治体の運用によって異なります。自事業所に適用される指定基準と、事業所の運用規程で確認してください。そのうえで本記事としておすすめするのは、AIの出力を下書きとして扱い、確認と確定は職員が行う運用です。
AIに任せてよい業務と人が守る業務の線引きそのものは、関連記事: 障害福祉×AIとは何か 事業所がAIに任せてよい業務と人が守る業務の線引き で詳しく扱っています。
では、下書きが速く作れると、記録にかかる時間はどこまで動くのか。一度、時間の中身を分けて見ておきます。
記録の時間は「書く時間」だけではない
記録が終わらない理由を「入力が遅いから」だけで説明すると、打ち手を1つ見落とします。
その日の記録が終わるまでを分解すると、少なくとも4つの作業が並んでいます。
- 思い出す:何時ごろ、誰と、どんな場面があったかを頭の中でたどる
- 書く:思い出した内容を文字にする
- 整える:記録の様式と言い回しに合わせて直す
- 確認する:内容に間違いがないかを見て、記録として確定する
音声入力が短くしやすいのは2番目、条件しだいで3番目の一部です。1番目は、支援の直後に話せる環境があれば短くなりやすくなります。ただし事務室に戻ってからまとめて話すなら、記憶をたどる時間は今と変わりません。4番目は減らない。むしろ下書きが増えれば、目を通す対象も増えます。
ここを飛ばして「入力が速くなれば記録が終わる」と考えると、導入後に「入力は楽になったのに帰る時間が変わらない」という感想が出やすくなります。
背景も押さえておきます。厚生労働省は、障害福祉分野の生産性向上と手続負担の軽減に関する情報を「障害福祉分野における生産性向上・手続負担軽減」というページにまとめています。同分野の人材確保は喫緊の課題と位置づけられ、ICT(パソコンやクラウドなどの情報通信技術)の活用による業務改善が進められている段階です(2026年8月7日参照)。
なお、同ページの本文では、音声入力を名指しした資料は確認できませんでした(2026年8月7日時点)。音声入力は、ICT活用という大きな流れの中で事業所が選べる手段の1つ。本記事ではそう位置づけて話を進めます。
では、なぜ「話せば終わる」と考えるとつまずくのか。話し言葉と記録文の距離から見ていきます。
「話せば記録が完成する」と考えるとつまずく理由
話した内容をそのまま確定するのは、おすすめできません。理由は3つあります。
話し言葉と記録の文は、形が違う
口に出す文章には、言い直しや省略が入ります。「えーと、午前は、いや午後だ、午後の作業のときに」。主語が抜け、時系列が前後し、その場にいた人にしか分からない指示語が混ざる。話しているときは伝わっても、文字にすると読み手が補えません。数か月後に読み返す職員や、引き継ぎで初めて目を通す職員にとっては、なおさらです。
事実と解釈が混ざりやすい
支援記録で分けておきたいのが、この2つです。
- 事実:本人が話したこと、実際に起きた出来事、時刻や場所
- 解釈:職員がその様子をどう受け取ったか
話しながら記録すると、この2つは地続きになります。「楽しそうにされていた」は解釈で、「『楽しかった』と話された」は事実。前者だけが残ると、あとから読む職員は根拠をたどれません。話す段階では混ざっていて構いませんが、確定の前に分ける工程が要ります。
整った文ほど、間違いに気づきにくい
音声認識には誤変換があります。利用者の氏名、事業所内でだけ通じる呼び名、作業や物品の名称。数字も、聞き取りの条件で変わります。
やっかいなのは、その先です。生成AIが文章を整える機能を持つ場合、誤変換の部分まで含めて自然な日本語に仕上がります。話していない内容が、もっともらしい一文として入ることもある。手書きのメモなら「ここ何だっけ」と引っかかる箇所が、整った文だと素通りしやすくなります。
3つとも、確認の工程を置けば扱えるものです。問題は、その工程を業務のどこに入れるかが決まっていないこと。次は、そこを組み立てます。
音声入力を記録業務に組み込む3つの工程
記録作成を3つに分けます。話す、整える、確認して確定する。
この分け方の利点は、音声入力を入れる場所が1か所に決まることです。「記録業務にAIを導入する」だと範囲が広すぎて、どこから手を付けるかの議論で会議が終わります。「話す工程だけを音声入力に替える」なら、試す範囲も、合わなかったときに戻す範囲も小さく収まります。
工程1 話す 支援の場面を短く言葉にする
話すタイミングを、いつにしますか。
音声入力の手応えは、ここで大きく変わります。支援の直後に話せるなら、思い出す作業は短く済みやすくなります。夕方にまとめて話すなら、記憶をたどる時間は今と同じだけかかる。試す場面を選ぶときは、「入力が速いか」より「支援の直後に話せる場面か」で見てください。
話す内容にも型があると、下書きの粒がそろいます。
- いつ(時間帯・場面)
- 誰と、どこで
- 何があったか
- 本人が話したこと、選んだこと
- 職員がどう対応したか
- 気になった点
この順に沿って、1分から2分。完成した文章を口述する必要はありません。箇条書きを読み上げるくらいの粗さで足ります。整えるのは次の工程だからです。
現場での置き場所も決めておきます。送迎車を降りたあと、活動の終了直後、休憩に入る前。事務室に戻らないと話せない設計にすると、結局あとまわしになります。
工程2 整える 話し言葉を記録の文に直す
生成AIによる整文機能を備えるツールでは、ここが働きどころになります。
やることは3つ。言い直しと重複を落とす。時系列を整える。記録の様式に合う言い回しに直す。この3つは、指示の出し方である程度そろえられます。
たとえば、次のような条件を毎回添えます。
- 話していない内容を足さない
- 事実と、職員の受け取りが読み分けられる書き方にする
- 敬体でそろえる
- 聞き取れなかった箇所は、推測で埋めずにそのまま残す
最後の1つが効きます。不明な部分を「(聞き取り不明)」のまま残す指示があると、確認する職員は見るべき箇所を見つけやすくなります。埋められてしまうと、どこが怪しいのか分からない。
この工程で出てくるのは、あくまで下書きです。様式の欄に流し込む前に、次の工程を挟みます。
工程3 確認して確定する 事実と解釈を分けて職員が仕上げる
確認する人は、誰でしょうか。
ここが決まっていないと、下書きだけが溜まります。記録の確認を担う職員を、試す前に決めてください。サービス管理責任者などの役職が担う事業所もあれば、現場のリーダー職や、記録した本人が一次確認を担う事業所もあります。
見る順番を決めておくと、確認は短くなります。
- 事実に間違いがないか(時刻、場面、本人が話したこと)
- 話していない内容が入っていないか
- 事実と職員の受け取りが、読み分けられる書き方になっているか
- 氏名や固有名詞の変換に誤りがないか
- 様式の必要項目が埋まっているか
上から順に見て、1と2で引っかかった箇所は元の音声に戻ります。この戻り方を取るなら、下書きのもとになった音声をどう扱うかもあわせて決めておきます(ルール4で扱います)。
下書きにAIを使ったことを記録本体へ書き添えるかどうかは、事業所の運用規程に沿って決めてください。本記事の立場は、確定した時点でそれは職員が責任を持つ記録だ、というものです。ここが3工程の終点になります。
工程が見えたら、次は話し始める前の決めごとです。
話す前に決めておく4つの運用ルール
試す前に決めるのは、4つだけです。
- 入力してよい情報と、入力しない情報
- ツールの保存先と、入力内容が学習に使われるかどうかの扱い
- 下書きを確認して確定する人
- 下書きと確定記録の置き場所
分厚い規程を作る話ではありません。本記事では、A4用紙1枚に4項目が書き出せている状態を、試行を始める目安として置いています。
ルール1 入力してよい情報と入力しない情報
最初に線を引くのは、情報の側です。
個人情報保護委員会は、生成AIサービスの利用について注意喚起を2023年6月に公表しています(2026年8月7日参照)。個人情報を含む入力を行う場合、その入力が利用目的の範囲内であることの確認が求められる、という内容です。
あわせて示されているのが、機械学習の扱いです。本人の同意なく個人データを入力し、それが応答結果の出力以外の目的(機械学習など)で取り扱われる場合、個人情報保護法違反となる可能性がある。そのため、入力した内容が機械学習に利用されないことなどを十分に確認することが求められています。
ここまでが公表されている内容です。事業所側で決めるのは、その先になります。
本記事としておすすめするのは、次の線です。ツールの契約条件、入力内容の保存と学習利用の扱い、職員のアクセス権限。この3点の確認が済むまでは、実在の利用者情報を入力せず、完全に架空のデータで試す。
ここで気をつけたいのは、氏名を置き換えただけでは、匿名化できたとは限らないことです。通所している曜日、住んでいる地域、家族構成、その日の出来事。これらが組み合わさると、誰のことか分かる形が残ることもあります。架空データを作るときは、氏名の置き換えだけでなく、周辺の情報も実在の組み合わせから離しておくほうが安全です。
決めた線は、口頭ではなく紙かデータで残してください。職員が入れ替わったときに引き継げる形にしておくためです。
ルール2 ツールの保存先と学習利用の扱い
契約前に確認する項目は、次の5つです。
- 入力した音声とテキストが、どこに保存されるか
- 保存される期間と、削除の手順
- 入力内容がAIの学習に使われるか。使わない設定にできるか
- 事業所の管理者が、職員ごとの利用状況を確認できるか
- システム障害や災害が起きたときのデータの扱い
無料版と法人向けの契約では、この扱いが異なることがあります。職員が個人の判断で使い始めたツールをそのまま業務に載せる前に、どの契約でどの条件なのかを確かめてください。
確認した内容は、利用規約や契約書のどこに書かれていたかまで控えておくと、あとから見直すときの手戻りが減ります。
ルール3 下書きを確認して確定する人
決めるのは、役職ではなく順番です。
「この役職が見る」と決めても、下書きが1日に何十件も上がってくれば、その人の作業だけが増えます。確認が特定の職員に集中する形になっていないか、試す前に見てください。
現実的な組み方は、二段構えでしょう。
- 一次確認:記録した職員本人が、話した内容と下書きを照らす
- 二次確認:記録の確認を担う職員が、様式と内容を見て確定する
一次確認を記録した本人が担うのは、話した内容を覚えているうちのほうが、下書きと照らしやすいためです。二段目まで一人に寄せると、そこで詰まります。
確認にかかる時間も測っておいてください。入力が短くなっても確認が伸びていれば、事業所全体では時間が動いていないことになります。
ルール4 下書きと確定記録の置き場所
置き場所が決まっていないと、どれが記録なのか分からなくなります。
決めるのは4つ。
- 音声データをどこに保存し、いつ消すか
- 下書きテキストをどこに置くか
- 確定した記録をどこに残すか(正本はどれか)
- 下書きと確定記録を、誰が見られるか
要点は、正本がどれかをはっきりさせることです。下書きと確定版が同じフォルダに並んでいると、次に読む職員がどちらを見るか迷います。確定した記録が正本で、下書きは作業用。この区別を、保存場所かファイル名で分かるようにします。
音声データを残すかどうか、残すならいつまでか、いつ消すか。ここは、何のために残すのかという利用目的、事業所の規程、ツールの契約条件、その音声にアクセスできる人の範囲を踏まえて、必要最小限の範囲で決めてください。確定後も残し続ける設計にすると、管理する対象がそのぶん増えていきます。
4つのルールが自事業所で埋まらないときは
決めておく4項目は、ここまでです。ただ、手が止まりやすいのは1番目と3番目でしょう。どこまでを架空データに置き換えれば安全といえるのか。確認を誰に持たせれば、その人だけが忙しくならないのか。どちらも記録の様式と職員体制に左右されるため、他の事業所の答えをそのまま当てはめにくい部分です。
相談では、入力ルールの線引きと確認の組み方を、いまの記録業務に合わせて整理するところから対応します。記録の様式と、1日の記録件数、確認を担っている職員の人数を手元にそろえておくと、話が早く進みます。
架空データから始める試行の進め方
何から始めるか。記録業務を工程に分け、音声入力を試す場面を1つ選ぶところからです。
手順は5段階に収まります。
- 試す場面を1つ選ぶ
- 架空データを用意する
- 期間と、終わりに見る項目を決める
- 試す職員を決める
- 決めた日に判断する
1 試す場面を1つ選ぶ
基準は、支援の直後に話せるかどうか。送迎から戻った直後、活動の終了直後、夜間の申し送り前。全部の記録に広げず、1つの場面に絞ります。
2 架空データを用意する
実在の利用者情報は使いません。ルール1とルール2の確認が済むまでは、この線を動かさないほうが安全です。作り方はルール1で触れたとおりで、氏名だけでなく周辺の情報も実在の組み合わせから離します。試行用の架空場面は、本記事では一例として3つほど用意する想定で進めます。
3 期間と、終わりに見る項目を決める
期間は短く区切ります。本記事では一例として2週間を置きます。選んだ場面が2週間に何回発生するかは事業所によって違うので、自事業所の頻度に合わせて調整してください。長く続けるほど日常の業務に溶けていき、判断する機会そのものを逃します。
終わりに見る項目は3つまで。たとえば、こう置きます。
- 1件あたりの記録作成にかかった時間(話す時間と確認の時間を合わせて)
- 下書きにどのくらい手を入れたか
- 確認する職員の作業が増えていないか
3つ目を外さないでください。入力が速くなっても確認が伸びていれば、事業所として時間は減っていません。
4 試す職員を決める
試す職員の人数は、本記事では一例として2〜3人を想定します。多いほど判断が速くなるわけではありません。
人選の基準は、選んだ場面に実際に立ち会っている職員かどうかです。送迎後の記録を試すなら送迎に入っている職員、活動終了後なら活動を担当している職員。その場にいない人が代わりに話すと、思い出す工程が余分に増えて、測りたい部分が測れなくなります。
操作に慣れた職員だけで固めるのも避けたいところ。「使えそう」という感触は集まりますが、記録の時間がどう動いたかは見えないままになります。
5 決めた日に判断する
終わりにどう決めるかを、始める前に共有しておきます。選択肢は3つ。対象の場面を増やす、設計を変えてもう一度試す、今回は使わない。
今回は使わないと決めたなら、それも1つの判断です。何を試して何が合わなかったかが残っているぶん、次に検討するときの出発点が変わります。
ここまでが手順です。実際の下書きがどんな形で返ってくるのかを、次に見ておきます。
音声入力の下書きはこんな形になる 架空のワンシーン
ここから示すのは、説明のために作った架空の例です。実在の利用者・職員・事業所の記録ではなく、日々の支援で起こりうる場面を合成して構成しています。氏名は仮のものです。
話した内容(支援の直後、1分程度)
「えーと、午後の、作業の時間なんですけど、Aさん、途中で手が止まって、で、声をかけたら、今日は集中しづらいって、そう言ってて。で、休憩を早めに取りましょうかって聞いたら、うなずいたので、15分くらい休んで。そのあと戻ってきて、最後まで作業されてました。あ、朝の様子は普段どおりです」
言い直しがあり、時系列も少し前後しています。話しているときは伝わりますが、このままでは記録になりません。
AIが返した下書き
「午後の作業時間に、Aさんの手が止まる場面がありました。職員が声をかけたところ、『今日は集中しづらい』と話されました。休憩を早めに取ることを提案すると、うなずかれたため、15分ほど休憩されました。休憩後は作業に戻り、最後まで取り組まれています。朝の様子は普段どおりでした。」
言い直しが落ち、時系列が整いました。読める文章にはなっています。
職員が確認して確定した記録
「14時20分ごろ、午後の作業中にAさんの手が止まる。職員が声をかけると『今日は集中しづらい』との発言あり。休憩を提案し、本人がうなずいて同意したため、14時25分から15分間休憩。休憩後は作業に戻り、終了時刻まで取り組む。朝の受け入れ時は、あいさつと会話の様子にいつもと変わった点は見られなかった。」
3つ目で何が変わったのでしょうか。先に断っておくと、補われた時刻と朝の受け入れ時の様子は、話した内容には入っていません。この例では、記録した職員が当日の業務メモと自分が見た範囲で確認したうえで足した、という設定にしています。
- 時刻を補った(下書きには「午後」しかない。14時20分・14時25分は、記録した職員が当日の業務メモで確認して足した時刻)
- 「うなずかれたため」を、本人の意思表示として書き直した
- 「朝の様子は普段どおり」という要約を、職員が朝の受け入れ時に実際に見た範囲(あいさつと会話の様子)の記述に直した
- 敬語の重なりを整え、記録の様式に合わせた
3つ目の変更が、この工程の要点です。「普段どおり」は、話した職員の頭の中では十分な情報でも、記録としては何を見てそう判断したのかが残りません。あとから読み返す職員が、判断の材料をたどれる形にしておく。
もう1つ、線がここにあります。下書きに情報を足すときは、確認できた事実だけを足す。時刻も朝の様子も、職員が確認できたから書けています。確認できないものは、推測で埋めずに下書きのまま残すか、書かない。この線を外すと、確定の工程そのものが、記録に根拠のない一文を足す作業に変わってしまいます。
AIが返した2つ目の文章も、間違ってはいませんでした。ただ、確定した記録として使うには足りない部分があった。この差を埋めるのが、確認して確定する工程です。
うまく回らないときに見直す4つのポイント
試してみたが、思ったほど楽にならない。そう感じたときに見る場所は、たいていツールの外にあります。
1 話すタイミングが支援から離れている
夕方にまとめて話しているなら、思い出す作業がそのまま残っています。音声入力を入れても、短くなるのは書く時間だけ。支援の直後に話せる場面へ移せないか、業務の流れのほうを見てください。
2 完成した文章を口述しようとしている
「ちゃんとした文で話さないと」と身構えると、話すのに時間がかかります。箇条書きを読み上げる程度の粗さで足ります。整えるのは次の工程だからです。
3 確認の負担が特定の職員に寄っている
下書きが増えれば、目を通す対象も増えます。一人にすべて集めていないでしょうか。一次確認を記録した本人が担う形に組み替えられれば、二段目に回る前に直る箇所が増え、負担の寄り方は変わりやすくなります。
4 下書きの直し方が職員ごとにばらばら
同じ下書きを渡しても、直し方が違えば記録の粒はそろいません。話していない内容を足さない、聞き取れない箇所は残す、敬体でそろえる。整える工程で添える条件をこの3つに決めるだけでも、下書きの形は安定します。
4つとも、ツールを替えれば片づくものではありません。工程と役割の設計に戻る話です。導入前の準備を横断的に確認したい場合は、関連記事: 障害福祉事業所のAI導入はなぜ失敗するのか つまずきやすい5つの場面と回避策 も参考になります。
ツール選びより先に、業務の整理を相談するという選択肢
自事業所だけで進められるかどうか。次の3つを書いてみると、判断がつきます。
- 音声入力を試す場面(いつ・どこで・誰が話すか)
- 入力してよい情報と、入力しない情報の線
- 一次確認と二次確認を担う人
3つとも埋まったなら、あとは試すだけです。試行の設計まで、自事業所で組めています。
止まりやすいのは2番目でしょう。どこまでを架空データに置き換えれば安全といえるのか、線を引く基準が事業所の中にないことがあります。ツールの利用規約を読んでも、自事業所の記録様式に当てはめた答えまでは書かれていません。
3番目で止まる場合もあります。確認を担える職員が限られている、あるいは記録の確認がもともと特定の人に集中している。この状態で音声入力を入れると、下書きが増えたぶん、その人の作業が伸びやすくなります。
外部と一緒に整理するのは、判断を委ねることとは違います。自事業所の線を早く引くための手段の1つです。製品を選ぶ前の段階で業務の側から整理を始めたほうが、試す範囲も小さく収まります。
なお、ツールの比較検討に進む段階であれば、関連記事: 障害福祉の記録ソフト・AI記録ツールの比較軸 機能の多さではなく自事業所の業務から選ぶ で7つの比較軸を整理しています。
よくある質問
AI音声入力で支援記録は作成できますか。
下書きの作成には使えます。話した内容を文字にする工程は短縮を狙えますが、記録として確定するには、職員による内容の確認と修正が要ります。
音声入力した内容をそのまま支援記録にしてよいですか。
そのまま確定するのはおすすめできません。話し言葉には言い直しや省略が含まれ、事実と支援者の解釈も混ざりやすくなります。記録の文に整え、確認する職員が確定する工程を挟んでください。
利用者の名前を音声で入力しても大丈夫ですか。
ツールの契約条件、入力内容の保存と学習利用の扱い、職員のアクセス権限。この確認が済み、事業所として入力してよい情報の範囲を決めるまでは、実在の利用者情報を入力しない運用をおすすめします。個人情報保護委員会も、生成AIサービスの利用について、個人情報を含む入力を行う場合の確認事項を注意喚起として公表しています(2023年6月公表、2026年8月7日参照)。
何から始めればよいですか。
記録業務を工程に分け、音声入力を試す場面を1つ選ぶことからです。入力ルールと確認する人を決め、実在の利用者情報を使わない架空データで試します。下書きの質と所要時間を見てから、広げるかどうかを判断してください。
まとめ 話して終わりにせず、確定までの流れを作る
音声入力で短くなるのは、記録作成の一部です。全部ではありません。
流れを振り返ります。記録作成を「話す・整える・確認して確定する」の3つに分ける。話す前に、入力の線引きとツールの条件、確認する人、置き場所の4つを決める。実在の利用者情報を使わない架空データで、1つの場面から試す。期間と見る項目を決めて、決めた日に判断する。
今日から手を付けやすいのは、最初の1つでしょう。自事業所の記録が、どの場面で、誰の手を経て確定しているか。この流れをA4用紙1枚に書き出すと、音声入力を入れる場所が見えてきます。
最初に試す場面は、1つ決まったでしょうか。工程を3つに分ける考え方、話す前に決める4つのルール、架空データで試す手順。このどれかが手元のメモに増えていれば、次の職員会議の材料になります。
ただ、決めきれずに残る部分もあります。どこまでを架空データに置き換えれば安全といえるのか。確認の工程を、いまの職員体制のどこに置くのか。試行の終わりに、何を見て判断するのか。この3つは記録の様式と体制に左右されるため、他の事業所の答えを持ってきにくい部分です。入力ルールの線引き、確認体制の組み方、試行範囲と判断基準の設計。ここは、小さく試すPoC・試作の進め方としてご相談いただけます。
相談の前にそろえておくと話が早い情報を挙げます。
- 記録の様式(実際に使っている書式。架空の記入例で構いません)
- 1日あたりの記録件数と、記録に取りかかっている時間帯
- 音声入力を使いたい場面(送迎後、活動終了後など)
- 記録の確認を担っている職員の人数と、確認にかかっているおおよその時間
- すでに使っているツールがあれば、その契約形態
無料相談では、記録業務の流れをうかがったうえで、どの場面から試すかと、確認の工程をどこに置くかを一緒に決めます。
