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障害のある人がAIとどう向き合うか 本人の意思を置き去りにしない使い方

障害のある人がAIとどう向き合うか 本人の意思を置き去りにしない使い方

AI導入を話し合う会議で、利用者本人の名前が一度も出てこない。そんな時間になっていないでしょうか。

障害のある人とAIの関わりは、本人が関わる場面を3つに切り分けるところから整理できます。本人の情報がAIに入る場面。本人自身がAIを使う場面。AIの出力が本人の支援に影響する場面。この3つを分けて書き出すと、どこで本人への説明と意思確認が必要になるかが具体的に見えてきます。あとは場面ごとに、本人に確かめることと事業所で整えることを並べていくだけです。

業務の負担を軽くすることと、本人の意思を尊重すること。この2つは、どちらかを選ぶ話ではありません。両方を同時に設計できるものです。

3場面に分ければ、どこで本人に確かめるかは自分たちで決められます。割り振りで迷ったときは、無料相談で対象業務を場面ごとに並べ直すところまで一緒にやります。手元にあると話が早いのは、対象業務の名前と、関わる職員の役割とおおよその人数。利用者の個人情報を含む資料は、お送りにならないでください。

本人への説明をどこから始めるか無料相談で整理する

障害のある人の暮らしに、AIはすでに入り始めている

AIが関わる場所は、事業所のパソコンの中にとどまりません。本人が持つスマートフォンの中にも、支援の方向を決める話し合いの手前にも入り込んでいます。

本人が関わる場面を、この記事では3つに分けて扱います。

場面1 本人の情報が事業所のAIツールに入る。 支援記録の音声入力、個別支援計画(利用者ごとの支援の目標と内容を定める計画)の下書き作成、日報の要約。本人について書かれた文章が、そのまま入力側に回ります。

場面2 本人自身がAIを使う。 文章を読み上げてもらう、言いたいことを言葉にする手伝いをしてもらう、分からない語を調べる。事業所が用意した道具でないことも多く、職員からは見えにくい場面です。

場面3 AIの出力が本人の支援に影響する。 生成された下書きの文面が計画にそのまま残る。要約された記録をもとに、次の支援の方向を話し合う。出力は人の判断を通って本人へ届きます。

3つを混ぜたまま「AIをどう使うか」と考え始めると、話は業務の手数をどう減らすかへ寄りがちです。分けて置けば、それぞれで本人に確かめる内容が違うと分かります。場面1で必要なのは情報の行き先の説明。場面3で必要なのは、誰が中身を確かめたのかという説明です。

3つはきれいに分かれるものでもありません。ひとつの業務が2つの場面にまたがることは、よくあります。支援記録の音声入力は場面1にあたりますが、その要約をもとに支援の方向を話し合うなら場面3にも足がかかっています。またがっていること自体は困りません。両方の欄に、同じ業務名を書いておけば済む話です。手を入れる余地が残るのは、どちらの場面としても書かれないまま運用が始まってしまったときのほう。

業務全体でAIに任せる範囲と人が持ち続ける範囲については、関連記事: 障害福祉×AIとは何か 事業所がAIに任せてよい業務と人が守る業務の線引き で扱っています。本記事は、そのうち本人の意思という一点に絞った整理です。

「AIの話は事業所側の話」で止まっていないか

AI導入を決める場に、本人が関わる余地はどれくらいありますか。

導入を決める会議の議題を思い出してみてください。費用はいくらか。誰が操作するのか。個人情報の扱いはどうするのか。ここまでは、たいていの事業所で並びます。「本人にどう伝えるか」という行が、その表のどこかに入っていたでしょうか。

現場で聞こえてくる説明は、おおむね3つに分かれます。「AIは職員の道具だから本人には関係ない」「説明しても難しい」「いまは業務を回すほうが先」。どれも日々の忙しさから出てくる言葉で、頭ごなしに否定できるものではありません。

ただ、この3つが並んだ状態のまま導入が進むと、ひとつの状態が残ります。本人が知らないうちに、本人に関わることの進め方が決まっていく。これは職員の姿勢だけに帰する話ではありません。検討項目の並びに本人の欄が用意されているか、という設計の側からも見直せます。

「説明しても難しい」という感覚についても、少し分解してみましょう。難しさは、伝える中身と伝え方の両方にまたがっています。一度に1つだけ伝える、写真やイラストを添える、紙の分量を減らす。日々の場面で使っている手立てが、ここでもそのまま使えます。

合理的配慮という言葉の中身も、ここで確かめておきたいところ。本人から社会的障壁の除去を必要としている旨の意思が示されたときに、過重な負担とならない範囲で、個別の状況に応じて行う必要かつ合理的な変更・調整のことです。本人の意思表明が難しい場合は、家族・介助者等が本人を補佐して行う意思表明も含まれます。これは、家族等が本人の意思を代わりに決めるという意味ではありません。何をどこまで調整するかに、あらかじめ決まった正解はありません。本人との建設的な対話を通じて、その都度決めていきます。この考え方は、内閣府「障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針」(令和6年版障害者白書 付録4)に示されています(2026年8月18日参照)。改正障害者差別解消法により、2024年4月から民間事業者にも合理的配慮の提供が法的に義務づけられました。

伝える中身も、仕組みの解説である必要はありません。話した内容を職員が記録に書くとき、文章の下書きを機械にも手伝ってもらっていること。書いた内容は職員が読んで確かめていること。やめてほしいときは言ってよいこと。この3つは、説明の入口にあたります。十分な説明として何が要るかは、運用ごとに変わります。入力する情報の内容と利用目的。保存や学習利用の有無。確認する人と、代わりの方法や撤回の手順。ここまで含めて考えることになります。技術の説明を尽くそうとすると、かえって伝わる範囲が狭くなることもあります。どこまでをいつ伝えるかは、本人と話しながら決めていきましょう。

意思決定支援の考え方を、AIとの向き合い方に重ねる

本人の意思をどう扱うかについては、すでに国の考え方が示されています。

厚生労働省は2017年(平成29年)3月31日に「障害福祉サービス等の提供に係る意思決定支援ガイドライン」(障発0331第15号)を策定しました(2026年8月18日参照)。意思決定支援とは、本人が自分で決められるように支える取り組みのことです。このガイドラインは自己決定の尊重を基本原則に置いています。本人の意思を推し量ることが難しい場合に本人にとっての最善の利益を判断することは、最後の手段という位置づけです。

制度の側にも、支える規定が置かれています。障害者総合支援法第42条には、事業者が障害のある人の意思決定の支援に配慮する旨の規定があります。日本が障害者権利条約を批准したのは2014年1月。土台となる考え方は、10年以上前から共有されてきたものです。

この考え方は、いま見直しの途中にあります。2026年7月10日に開かれた第157回社会保障審議会障害者部会に、「意思決定支援ガイドライン(第2版)案」が参考資料として示されました(2026年8月18日参照)。案の段階です。公開資料では正式な発出時期が示されておらず、案の表紙も「令和8年〇月」のままになっています。案では「本人の最善の利益」という記載を削除し、「意思と選好に基づく最善の解釈」という表現に基づいて意思決定支援を定義し直しています。改訂の契機として案の中に挙げられているのは、国連障害者権利委員会の総括所見(令和4年10月)で、2017年版の「本人の最善の利益」という言葉の使用に懸念が示されたことです。案は意思決定支援の流れを、意思形成支援・意思表明支援・意思実現支援の3つとして整理しています。

ここまでが、制度の側が示している内容です。

なお、この案の本文にAI・生成AIへの言及は見当たりませんでした(2026年8月18日時点で全文を確認)。ガイドラインがAIの使い方を定めている、という読み方はできません。それでも、本人の意思を起点に組み立てるという枠組みは、AIとの向き合い方を考える土台として使えます。ここから先に書くことは、本記事の編集上の整理として読んでください。

たとえば、案が示す意思形成・意思表明・意思実現という3つの段は、AIが関わる場面にこう重ねられます。本人が判断するための材料がそろっているか(意思形成)。本人が言いたいことを出せる場と方法があるか(意思表明)。示された意思が、実際の運用に反映されるか(意思実現)。AIの説明を一度したかどうかより、この3つの段のどこで止まっているかを見るほうが、次の手は決めやすくなります。説明はしたけれど、やめたいと言える場がない。そういう止まり方も起こります。

場面別に整える 本人の意思を尊重するAIの使い方

手を付ける順番は、3場面のうち自事業所ですでに動いている場面からです。

以下では、場面ごとに「本人に確かめること」と「事業所で整えること」を並べます。この2つを混ぜないでください。本人と一緒に決めることと、事業所の中だけで決められることは、進め方も所要時間も違います。

場面1 本人の情報が事業所のAIツールに入るとき

先に決めるのは、誰の情報がどこへ行くのかです。

本人に確かめること。

  • 記録や計画の下書きに機械の力を借りていることを、本人が分かる方法で伝えられているか
  • 伝えたことについて、本人がどう受け止めたかを確かめられているか
  • 質問や希望が出たときに受け取る人が決まっているか

説明の相手は、本人が基本です。そのうえで、保護者・成年後見人等にも説明する場合があります。年齢や契約関係、法定代理権の有無、本人が希望する支援の方法などによります。家族等へ説明したことをもって、本人への説明や意思確認の代わりにはしません。誰に説明したかを記録するときも、本人への説明と、そのほかの方にした説明は分けて残しておいてください。

事業所で整えること。

  • 入力した内容の保存先と、その管理を担う職員
  • 入力データがサービス側の学習に使われる設定になっていないか。設定を変更できるか
  • 職員ごとのアクセス権限と、閲覧履歴の残り方
  • 退職・異動があったときのアカウント停止の手順

個人情報保護委員会には、「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」という案内が2023年6月2日に出されています(2026年8月18日参照)。本記事で確かめたのは、この案内が同委員会のサイトにあるところまでです。中身は原典にあたってください。

伝える時期も、先に決めておきたいところ。契約や利用開始の面談に合わせるのか、導入のタイミングで別に場を設けるのか。どちらでも構いませんが、「気づいた人がそのつど話す」形にすると、伝わった人と伝わっていない人が混ざります。法人の方針として一度決めてしまうほうが、現場は迷いません。

法的な説明・同意の要否は、一律には決まりません。次のような条件によって変わります。

  • 入力する情報の内容と利用目的
  • AI事業者による取扱い
  • 契約内容
  • サービス種別ごとの規定

本記事でどちらかに判断することはせず、個人情報保護法・事業所の規程・利用規約などの個別確認をおすすめします。そのうえで、本人にも分かる方法で事前に説明し、意思を確かめる運用を推奨します。

音声入力そのものの工程については、関連記事: 支援記録をAI音声入力で作成するには 話して終わりにしない下書きから確定までの流れ をご覧ください。

場面2 本人自身がAIを使うとき

事業所の外で起きていることに、どこまで関わるか。ここは線を引きにくい場面です。

本人に確かめること。

  • どんな場面で使っていて、何が助かっていると感じているか
  • 困ったことや、戸惑ったことはあったか
  • 使い方について相談したい相手はいるか

事業所で整えること。

  • 相談を受ける職員を決めておく(「詳しい人がたまたま対応する」状態にしない)
  • 氏名・住所・通所日など、自分や他の人が特定できる情報を打ち込まない、という伝え方の準備
  • 出てきた答えが事実と違うことがある、という前提の共有

障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法が2022年5月に公布・施行され、障害のある人が情報を得たり意思疎通したりしやすい環境づくりが国の施策として位置づけられました。本人が自分で選んだ道具を使うことは、その方向と重なります。使いたい気持ちを尊重することが基本です。安全や第三者の権利、事業所が管理する端末の規則などが関わる場面では、理由と代わりの方法を本人と一緒に確認します。

把握しきれないことを、そのまま受け入れる場面でもあります。私物のスマートフォンで何を使っているかを、事業所が全部つかむ必要はありません。むしろ、困ったときに声をかけられる相手が事業所側にいるかどうか。ここが決まっているほうが、本人にとっては使いやすい状態に近づきます。「知らないところで使われている」と身構えるより、「聞かれたら一緒に見る」と決めておく。運用としては、そのほうが続きます。

場面3 AIの出力が本人の支援に影響するとき

出力は、人の判断を通ってから本人に届きます。だからこそ、通した人が誰なのかを残しておきたいところ。

本人に確かめること。

  • 計画や記録に載っている言葉が、自分の言いたかったことと合っているか
  • 分かりにくい言い回しになっていないか
  • 直してほしいところはあるか

事業所で整えること。

  • 生成された文面を確認して確定する職員を決める(サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者など、役割で決めておく)
  • 本人が示した意思・選好を、生成された文面とは別の欄に残す
  • どんな方法で示されたのか(言葉・表情・視線・動作・意思伝達装置など)もあわせて記録する
  • 下書きの状態と確定した状態を、画面や書面で区別できるようにする

本人に見せる形も、あわせて決めておきたいところです。確定した計画をそのまま渡すだけで伝わる場合もあれば、要点を絞った版を別に用意したほうがよい場合もあります。文字を大きくする、写真を添える、一度に見せる項目を減らす。ここで工夫できることは、日々の説明で使っている手立てと重なります。生成された文面を土台にするなら、分かりやすく整え直す工程を誰が担うのかまで決めておいてください。

読みやすくまとまった文章が出てきたとき、それが本人の言葉から遠ざかっていることがあります。読みやすさと、本人の意思が残っていること。この2つは別々に確かめてください。ツール選定の段階での見方は、関連記事: 個別支援計画作成AIツールの選び方 本人の意向と職員の確認工程から候補を絞る にまとめています。

本人が使いたくない・やめたいと言ったとき(停止条件)

「使いたくない」は、折り合いをつける調整項目に入れません。

費用が高い、職員の負担が大きい、対象になる人数が多い。こうした事柄は、規模を小さくしたり時期をずらしたりして調整できます。本人が示した拒否の意思は、その調整の対象に混ぜないでください。規模を縮めても、別の場面に移しても、本人の意思が変わったことにはならないからです。

以下は、法令上の要件を示すものではなく、本記事が提案する運用上の停止条件です。次の3つに当たる場合は、調整項目とは別の紙に書き、いったん手を止めることをおすすめします。

  • 本人が使いたくない・やめたいという意思を示したとき
  • 本人の情報の扱い(保存先・学習利用の有無・アクセス権限)が確認できていないとき
  • 本人への説明が済んでいないとき(保護者・成年後見人等への説明が済んでいても、本人への説明の代わりにはしません)

止める範囲も決めておきます。ここで止めるのは、その本人の情報を対象のAIに入力すること、そしてその出力をその本人の支援に使うこと。事業所全体でAIの利用をやめる話ではありませんし、ほかの利用者の運用に及ぶ話でもありません。

止めたことで本人が不利益を受けない形にしてください。サービスの利用条件を変えたり、対応を後回しにしたりする理由にはしません。従来の方法で同じ支援を受けられるよう、代わりの手段をあわせて用意します。

意思や選好は、言葉だけで示されるとは限りません。表情や視線、動作、意思伝達装置など、その人に合う方法で確かめます。確かめられなかった項目は「未確認」として残し、沈黙を同意ともとらず、拒否ともとらないでください。

意思が示されたことは、記録に残します。残すのは、拒否が示されたときの状況、止める対象の範囲、次に確認する方法と時期の3つ。意思や選好は変わることもあるため、本人が希望したときにいつでも再開を相談できる経路も、あわせて伝えておきましょう。

止めたあとに残る仕事は、代わりの方法を一緒に考えることです。理由を問いただす場にはしないでください。意思が示された時点で、いったん手を止める。そのうえで、何が引っかかったのかを本人のペースで聞いていく。順番はこちらのほうが、次の選択肢を出しやすくなります。

先に、外に相談するときの範囲を書いておきます。無料相談で扱うのは、運用工程の棚卸しと整理です。法的な説明・同意の要否、代理権の判断、意思決定支援そのものの専門的な判断は扱いません。これらが論点になる場合は、専門家や所轄の窓口へ確認していただく形をご案内します。

そのうえで。3場面それぞれの「本人に確かめること」「事業所で整えること」まで書き出せれば、着手する場面は自分たちで選べます。手が止まるとすれば、自事業所の業務をどの場面に割り振るかの段でしょう。同じ業務名が2つの欄に入る場面では、どちらを起点に説明を組むかで判断が割れます。ご用意いただくのは、対象業務の名前と、関わる職員の役割とおおよその人数。利用者の個人情報を含む資料は、お持ちにならないでください。場面の切り分けメモと概数だけで進められます。

3場面の割り振りから一緒に棚卸しする

ある事業所のBefore/After

以下は、複数の場面をもとに構成した完全な架空の例です。登場する数値を含めて、すべて説明のための仮定であり、効果を示す実証事例ではありません。実在する法人・利用者・職員はおらず、個人にたどり着く手がかりになる情報も入れていません。

Before

生活介護の事業所。半年前から支援記録の音声入力を使い始めました。記録にかかる時間は短くなり、管理者の実感としては導入はうまくいっていました。

本人への説明は、どこにも置かれていませんでした。AIは職員が使う道具であり、支援の中身が変わるわけではない。そういう整理だったからです。

ある日、利用者の一人が職員に尋ねました。「私の話、機械に入れてるの」。その場で答えられる職員がいませんでした。

After

管理者は、AIが関わる場面を3つに書き出しました。

音声入力は場面1。要約された記録をもとに支援の方向を話し合っている会議は、場面3にあたると分かりました。場面2は把握できていないまま。ここは「分からない」と書いて残しています。

場面1では、契約更新の面談に合わせて、記録の下書きに機械の力を借りていることを本人に伝える手順を作りました。伝える言葉は、写真とイラストを添えた1枚に。契約に関わる範囲では保護者にも同じ内容を伝えますが、それで本人への説明を済ませたことにはしない、と手順書に書き添えています。

場面3では、生成された文面と職員が聞き取った本人の言葉を、別の欄に分けて残すようにしました。

停止条件は、費用や人員の調整項目とは別の紙に書き、事務室に貼りました。

手間が増えた部分もあります。この例では、説明用の1枚を作るのに職員2人で半日、面談のたびに5分ほど時間が延びる、という前提を置いています。いずれも説明のための仮定の数字で、実測値ではありません。仮にそうなった場合、その5分をどこから回すかまで決めておく、という話です。

しばらく続けた時点で、記録にかかる時間は導入直後と大きく変わっていない、という想定にしてみます。それでも変わりうるのは、「これ、何に使うの」と尋ねられたときに、その場で答えられる職員がいるかどうか。場面2の欄は、この例では空欄が残ったままです。空欄があると分かっている状態は、空欄に気づいていない状態とは違います。

本人と一緒に確かめるチェックリスト

このチェックリストは、事務室で職員だけが埋めるものではありません。本人と向かい合って、一緒に開ける形にしてあります。

確かめ方について、先にひとつ。意思や選好は、言葉だけで示されるとは限りません。表情や視線、動作、意思伝達装置など、その人に合う方法で確かめます。返答の形が言葉でなくても、示された意思であることに変わりはありません。

  • いま何のためにこの道具を使っているのか、本人に伝わる言葉で言えますか
  • 記録の下書きに機械の力を借りていることを、いつ、誰に伝えましたか
  • 「やめたい」と言ってよいことを、本人は知っていますか
  • 計画や記録の文面のうち、どこが本人から聞いた言葉なのか、指し示せますか
  • 本人が自分で使ってみたいと言ったとき、相談を受ける職員は決まっていますか
  • 説明に使う紙は、本人が読める文字の大きさと言葉になっていますか
  • 次に同じことを確かめるのは、いつですか

使い方には、ひとつだけ注意があります。7つを順番に読み上げる形にすると、聞き取り調査のような場になってしまいます。面談やモニタリング(計画の実施状況を定期的に確認する作業)の会話のなかで、話が近づいたところに1つだけ差し込む。そのくらいの粒度が扱いやすいはずです。確かめられなかった項目は「未確認」として次に持ち越します。沈黙を同意とみなさないでください。

項目のうち、職員側がすぐに「はい」と言えないものが出てきたら、そこが最初の一歩です。全部を今月中に埋める必要はありません。1つ選んで、次の面談の場で試してみてください。

相談を検討するタイミング

外の目を入れたほうが早い状態が、いくつかあります。

  • AIの利用について本人に尋ねられたとき、答える人と答え方が決まっていない
  • 3場面の書き出しで、場面2(本人自身が使う)の欄が空いたまま埋まらない
  • 停止条件と、費用や人員の調整項目が同じ表に並んでいる
  • 説明の相手が、サービス種別ごとに整理できていない
  • 生成された文面を確認して確定する役割が、職員ごとにばらついている

逆に、相談を急がなくてよい状態もあります。3場面の欄が埋まっていて、停止条件も別の紙に書いてある。あとはチェックリストを面談で使ってみるだけ。そういう段階なら、まず1回試してから振り返るほうが早いはずです。外の目が効くのは、書き出す作業そのものが進まないときや、書き出した先の判断が割れたときでしょう。

どれも、事業所の中だけで議論を重ねると結論が出にくい項目です。答えが体制や様式に依存するため、他の事業所の運用をそのまま持ち込みにくい部分でもあります。導入そのものでつまずいている場合は、関連記事: 障害福祉事業所のAI導入はなぜ失敗するのか つまずきやすい5つの場面と回避策 も合わせてどうぞ。

よくある質問(FAQ)

障害のある人とAIの関わりで、まず何から始めればよいですか?

自事業所でAIが関わる場面を、本人の情報が入る場面・本人自身が使う場面・AIの出力が支援に影響する場面の3つに書き出すことから始めるとよいでしょう。場面が見えると、どこで本人への説明や確認が必要かが具体的になります。

意思決定支援とAIの利用は、どう関係しますか?

意思決定支援は、本人の自己決定を尊重し、必要な場面で支援を行う考え方です。本記事では、この考え方をAI活用の3場面に応用できる枠組みとして用います。ガイドライン自体がAIの利用を定めているわけではありません。そのうえで、本人の情報がAIに入る場面や、AIの出力が支援に影響する場面では、本人への説明と確認という形で自己決定の尊重を具体化できます。

利用者本人の情報をAIツールに入力するとき、本人への説明は必須ですか?

法的な説明・同意の要否は一律には決まりません。入力する情報の内容と利用目的、AI事業者による取扱い、契約内容、サービス種別ごとの規定などによって異なります。本記事では一律に判断せず、個人情報保護法・事業所の規程・利用規約などを個別にご確認ください。そのうえで、本人にも分かる方法で事前に説明し、意思を確かめる運用を推奨します。説明の相手は本人が基本です。年齢や契約関係などに応じて保護者・成年後見人等にも説明しますが、それをもって本人への説明の代わりにはしません。

本人がAIを使いたくない、やめたいと言ったときはどうすればよいですか?

本人の拒否は、費用や負担の調整とは切り離した停止条件として整理することをおすすめします。ここでいう停止条件は、本記事が提案する運用上の整理であり、法令上の要件を示すものではありません。止めるのは、その本人の情報を対象のAIに入力することと、その出力をその本人の支援に使うことです。止めたことで本人が不利益を受けない形にし、従来の方法で同じ支援を受けられるよう代わりの手段を用意します。意思や選好は変わることもあるため、本人が希望したときに再開を相談できる経路も残しておきましょう。

まとめ 次の一歩

本人の意思を置き去りにしないための出発点は、場面を分けることでした。

本人の情報がAIに入る場面。本人自身がAIを使う場面。AIの出力が本人の支援に影響する場面。3つを分けて、それぞれに「本人に確かめること」と「事業所で整えること」を並べる。停止条件は、費用や人員の調整項目とは別の紙に書く。ここまでが、今日から手を付けられる範囲です。

厚生労働省の意思決定支援ガイドラインが2017年から示してきたのは、本人が自分で決められるように支えるという考え方でした。2026年に示された第2版案でも、本人の意思と選好を起点に据える方向が示されています。これは案の段階の内容です。それでも、AIという新しい道具が入ってきたときに確かめる相手は変わりません。

読み終えたいま決められるのは、どの場面から着手するかと、停止条件を先に書いておくことの2つでしょう。迷いやすいのは、説明をいつ、どの順で行うかの組み立てです。契約時に伝えるか導入時に伝えるかで、準備するものが変わります。無料相談では、AIが関わる業務の棚卸しから、場面ごとの説明・意思確認の進め方、停止条件の書き方までを一緒に組み立てます。扱うのは運用工程の棚卸しと整理までで、法的な説明・同意の要否、代理権の判断、意思決定支援そのものの専門的な判断は行いません。その線に触れる論点は、専門家や所轄の窓口への確認をご案内します。初回から具体的に進めるために、次の3つをおおまかに言える状態にしておいてください。

  • 提供しているサービス種別と、AIが関わっている(または関わりそうな)業務
  • その業務に関わる職員の役割(サービス管理責任者・児童発達支援管理責任者・現場職員など)とおおよその人数
  • 本人への説明を、いまどの場面で行っているか

利用者の個人情報を含む資料は、お持ちにならないでください。お送りいただく必要もありません。場面の切り分けメモと概数だけで相談を始められます。

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