居宅介護・重度訪問介護のAI記録 ヘルパーが残すこととAIに任せることの分け方

重度訪問介護の夜間の記録を読み返すと、8時間の支援の欄に「見守り。特変なし」とだけ書かれている。直行直帰で動く居宅介護のヘルパーは、次の訪問先へ向かう前に急いで記録を書いている。サービス提供責任者として、音声入力やAIの文章作成で記録を書きやすくできないかと考え始めた方もいるのではないでしょうか。
居宅介護や重度訪問介護の記録は、支援を提供するたびにつけ、提供したことについて利用者の確認を受ける記録です。AIに任せるのは、ヘルパーが話したメモを時刻の順に並べ、言葉を整えるところまでにします。支援をした時刻と内容・本人の言葉と本人が伝えた指示・気づいたことと伝えた相手は、ヘルパーが自分で残します。そのうえで、整えた記録の内容を本人に合う方法で確かめ、自分が伝えたことだと分かるかを見ます。運営基準の記録の定めを押さえたうえで、架空の夜間支援のメモを使って、分け方と確かめ方をたどっていきます。
訪問系の記録は、支援のたびにつけて確認を受ける記録
AIを使う前に押さえておきたいのは、この記録が誰の前で、何のために書かれるかです。障害福祉サービスの運営基準は、居宅介護の事業者に対し、支援を提供したときは提供日や内容などを提供の都度記録するよう定めています。その記録に際しては、利用者(支給決定障害者等)から提供したことについて確認を受けなければなりません(第19条)。記録は提供した日から5年間保存し(第42条第2項)、これらの定めは重度訪問介護にも準用されます(第43条第1項)。e-Gov法令検索「障害者総合支援法に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準」(平成18年厚生労働省令第171号)
厚生労働省が示している実績記録票の記載例でも、居宅介護と重度訪問介護のどちらにも、提供した時間を記す欄と並んで「利用者確認欄」が設けられています。厚生労働省 障害者自立支援給付支払等システム関係資料(令和7年10月施行分)実績記録票の記載例(PDF)
同じ基準は、書面で作成・保存することになっている記録を、電磁的記録で行うことも認めています(第224条第1項)。記録を電子データで作り、保存すること自体は、基準の上でも認められています。一方で、この基準には生成AIの使い方を定めた規定はありません。AIを使うかどうか、どこまで任せるかは、事業所が決めることになります。
基準は記録をつける場所までは定めていませんが、訪問系ではヘルパーが利用者宅や外出先でこの記録を書き、その場で確認を受けることもあります。訪問系の記録は、提供した事実を利用者に確かめてもらう記録です。サービス提供責任者が居宅介護計画(重度訪問介護では重度訪問介護計画)の実施状況をつかむとき(第26条第3項、第43条第1項で準用)にも読み返します。AIで読みやすくしても、事実が変わったり、本人に伝えても自分のことだと分からない文になったりしては、記録の役目を果たせません。
ヘルパーが残すことと、AIに任せること
AIを記録に使うときに迷いやすいのは、どこまで任せてよいかという線引きです。訪問系の記録では、次のように分けておくと、ヘルパーが訪問先で迷わずに済みます。
ヘルパーが自分で残すこと:
- 支援をした時刻と、行った支援の内容
- 本人の言葉と、本人が伝えた指示や希望(言い方をそのまま「」で残す)
- 体調や様子について、見たこと・聞いたこと
- いつもと違ったことと、それを誰に伝えたか
AIに任せてよいこと:
- 話し言葉のメモを、時刻の順に並べる
- 言い間違いや重複を直す
- 事業所の記録様式の項目に振り分ける
AIに任せないこと:
- メモにない時刻や支援の内容を補う
- 本人の気持ちや理由を推測して書き足す
- 「特変なし」「良眠」のような、ひとまとめの評価に置き換える
- 計画どおりか、受診や連絡が必要かを判断する
重度訪問介護では、本人が体の向きや介護の手順をヘルパーに伝えながら支援を受ける場面があります。AIに文章を整えさせると、本人が伝えた「右を下に」という指示が、「体位変換を行った」のようにヘルパーを主語にした文へ置き換わるおそれも出てきます。本人の言葉を「」でそのまま残すことは、誰が何を決めたかを記録に残すことでもあります。
利用者宅で声に出して入力する前に、決めておくこと
音声入力を使うと、ヘルパーは話すだけでメモを残せます。ただ、利用者宅で声に出すことと、その音声や文字がAIのサービスに渡ることの両方について、先に決めておくことがあります。
障害福祉サービスを利用していることが分かる情報は、個人情報保護法上の「要配慮個人情報」に当たります。個人情報保護委員会 ガイドライン(通則編)2-3
個人情報保護委員会は、生成AIサービスに個人情報を含む指示を入力する場合、利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認するよう求めています。あわせて、本人の同意を得ないまま入力した個人データが応答結果の出力以外の目的で扱われると、法令違反となる可能性があるとの指摘です。そのため、提供事業者がそのデータを機械学習に利用しないことなどを十分に確認するよう注意喚起しています。個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)
この注意喚起に沿って、出発点は「事業所が条件を決めて認めるまで、利用者の情報は入力しない」とします。条件を決めるときに確かめるのは、利用目的の範囲内か・本人の同意が要るか・使うサービスの契約や設定で音声と文字がどこに保存されどう扱われるか、の三点です。運営基準も、従業者が業務上知り得た利用者や家族の秘密を漏らさないよう定めています(第36条)。
そのうえで、訪問系ならではの点として、次の三つを決めておきます。
- 声に出す場所と内容: 音声入力で話す内容は、事業所が認めた範囲に限ります。本人の前であっても、本人が家族やほかの人に聞かれたくない情報や、同居する家族の事情は口にしません。本人の前で入力するかは下の「本人への説明」で尋ねて決め、迷う内容は訪問先を出て、周りに人のいない場所で入力します。
- 使う端末: 事業所が貸し出す端末か、私物を使うのか。画面のロックや、置き忘れたときの連絡先も決めます。
- 本人への説明: 記録のつけ方が変わることを本人に伝えます。本人の前で音声入力を使うときは、その場で使ってよいかを尋ね、断られたら手書きやあとからの入力に切り替えます。
重度訪問介護の夜間の記録で、分け方を試す
ここからは、事業所が条件を決めるまでの練習として、架空のメモで分け方を試します。重度の肢体不自由があり、文字盤で意思を伝えるDさんの、夜間を含む支援をヘルパーが話して残したメモです。実在の利用者の記録ではありません。
練習用の架空メモ(重度訪問介護、夜間を含む支援。ヘルパーが話した内容を文字にしたもの)
Dさん
・21時 交代。前のヘルパーから「夕食のとき、少しむせた」と聞いた
・21時半 文字盤で「みぎ した」。右を下にして、背中にクッションを入れた
・23時 「テレビ けして」。消した
・1時 呼び出しの音。文字盤で「あつい」。掛け布団を1枚外した
・3時 眠っている。呼吸は静か
・6時 起きた。とろみをつけたお茶を100ml飲んだ
・7時 交代。むせたことは朝のヘルパーに伝えた
このメモを整えるときは、次のような指示文を使います。
以下は練習用の架空のメモです。重度訪問介護の記録として、時刻の順に整えてください。
・時刻・行ったこと・本人の言葉・見たこと・引き継ぎの内容など、メモにある事実だけを使ってください。
・本人が文字盤で伝えた言葉は「」でそのまま残し、誰が伝えたかが分かる文にしてください。
・メモにない気持ちや理由、「良眠」「特変なし」のような評価の言葉を足さないでください。
・前のヘルパーから聞いたことと、次のヘルパーに伝えたことも省かないでください。
(ここにメモを貼る)
返ってきた文章は、元のメモと次の四つの点で見比べます。
- 本人の指示が、本人の言葉として残っているか。「みぎ した」「テレビ けして」「あつい」が消えて、ヘルパーが主語の文だけになっていないか。
- 時刻と行ったことが、一つずつ残っているか。1時の呼び出しや、6時の水分の量がまとめられて消えていないか。
- 引き継ぎが残っているか。前のヘルパーから聞いた「少しむせた」ことと、朝のヘルパーに伝えたことが両方あるか。
- 書いていない評価が足されていないか。「良眠」「特変なし」「落ち着いて過ごされた」のような言葉が入っていないか。
居宅介護の記録でも、同じ四つの点で見比べられます。たとえば調理の支援なら、本人が伝えた味付けや量の希望・行った支援・気づいたことと伝えた相手が、元のメモのとおりに残っているかを確かめます。
たとえば「夜間、体位変換と室温調整を行い良眠。特変なし」という文が返ってきたとします(説明のために作った想定の例です)。この文は、四つの点のすべてに引っかかります。読みやすくはなっても、本人が何を伝え、ヘルパーが何に応えたかが消えています。このメモの長さなら、AIを使わずに自分で書き直したほうが早いこともあります。使わないという判断も、記録の質を守る選択の一つです。
利用者の確認を受けるときに、整えた記録を一緒に確かめる
訪問系の記録には、提供したことについて利用者の確認を受ける場面があります。基準が求めているのは提供したことの確認ですが、AIで文章を整えるようになったら、この場面を、整えた記録の内容が本人にとって違っていないかを確かめる機会にもできます。読み上げる、紙や画面を一緒に見るなど、確かめ方は本人に合う方法を選びます。
確かめるときの問いは、一つに絞ると答えやすくなります。「ここに書いたことで、違うところはありますか」。本人が「そうは言っていない」と伝えたら、本人の言い方に直します。文字盤や意思伝達の装置で答える方には、答えを待つ時間を取ります。障害児の利用などで確認を受ける相手が本人と異なる場合や、確認の受け方がすでに本人や家族と決まっている場合は、そのやり方に従い、AIを使うことを理由に変えないでください。
ヘルパーにも、記録を書き終えたら一つだけ自分に問いかけてもらいます。この記録の内容を本人に伝えたら、自分が伝えたことだと分かるでしょうか。分からないと感じた箇所があれば、本人の言葉が要約に置き換わっていないかを元のメモで確かめます。
1か月分をまとめさせるときは、元の記録に戻る
サービス提供責任者は、居宅介護計画や重度訪問介護計画を作ったあとも実施状況をつかみ、必要に応じて計画を見直します(第26条第3項)。1か月分の記録をAIにまとめさせれば、読み返す手間は減らせるかもしれません。
ただ、まとめた文章では、本人の言葉が少しずつ変わっていった様子や、同じ指示が何度出ていたかが消えることがあります。まとめは、元の記録のどこを読み返すかを探す目次として使い、計画の見直しにかかわる箇所は元の記録で確かめます。計画どおりか、見直しが必要かの判断はサービス提供責任者が行い、AIに決めさせないことは、日々の記録と同じです。
一人の利用者の、一回の支援から試す
訪問系の記録にAIを使うときは、AIに任せる範囲を「並べる・整える」までにし、時刻・支援の内容・本人の言葉と指示・伝えた相手はヘルパーが残します。まずは、次の三つの順に進めてみてください。
- 使ってよいサービスと端末・入力しない情報・声に出す場所を決める。決まるまでは、利用者の情報を入れずに架空のメモで練習する。
- 架空のメモと指示文を数人のヘルパーで試し、返ってきた文章を四つの点で見比べて、気づいた違いを持ち寄る。
- 条件が整ったら、記録のつけ方が変わることを説明して了承を得た一人の利用者で2週間試し、サービス提供責任者が元のメモと整えた記録を見比べる。
試してみると、ヘルパーごとに話し方やメモの細かさが違い、同じ指示文でも整い方がそろわない場面に出会います。私物の端末を使うヘルパーがいれば、どこまで認めるかの線引きにも時間がかかります。指示文と確かめ方を自分の事業所の記録様式に合わせて作り直すところまで、通常の業務と並行して一人で進めるのは楽ではありません。
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