COLUMN

コラム

支援記録のAI下書きを確認しても見落とすとき メモにない一文を見つける読み方

支援記録のAI下書きを確認しても見落とすとき メモにない一文を見つける読み方

共同生活援助(グループホーム)の記録を、AIの下書きで作るようになって1か月。サービス管理責任者が確認済みにした記録に「体調がすぐれないため夕食を残された」と書かれていました。翌朝、夕方に入っていた世話人のメモを見ると、そこにあったのは「『あとで食べる』と話した」という一行です(説明のために作った架空の場面です)。下書きを読んだのに、なぜ気づけなかったのか。そう考えている管理者やサービス管理責任者の方、確認を任されている職員の方に向けて書きます。

AIの下書きの見落としは、読む人の注意不足だけで起きるものではありません。整った文を上から読んでいくと、メモにない推測も、自然な一文として通ってしまうからです。見落としを減らすには、読み方を変えます。下書きの一文ずつについて、元のメモのどこに書いてあるかを探す。次に、メモの側から、下書きに残っているかをたどる。推測が紛れ込みやすい言葉の形にも、ある程度は見当がつきます。公的な資料と記録の研修資料を確かめたうえで、架空のメモ1件を使って読み方をたどります。

確認したのに見落とすのは、下書きが読みやすいから

AIの下書きでは、誤りの部分も整った文の形で出てくることがあります。言葉の調子がそろっていると、上から読み流しても引っかかる所がありません。

書いた本人が読むときは、別の理由も重なります。メモにない一文でも、自分の覚えている場面と合っていれば、正しく見えてしまう。記憶で補って読むためです。反対に、メモを見ずに下書きだけを読む確認者は、誤りに気づく手がかりを持っていません。

総務省と経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」は、AIに過度に依存するリスクとして「自動化バイアス」を挙げています。対策の一つとして示されているのが、AIの判断などを人が承認するときに、承認する理由や根拠を自分で考えてから承認する、という考え方です。総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」本編(PDF)

支援記録に当てはめると、確認済みにする前に、一文ずつ「この文の根拠はメモのどこか」を指させるかどうか。下書きを読んで「おかしくないか」を探すのとは、向きが逆の読み方です。

厚生労働省の「障害福祉現場における生産性向上の基本的な考え方」には、保護者面談の録音を生成AIで要約した、児童発達支援の事業所の取組が載っています。記録の作成時間は短くなった一方で、話者の表情や身振りといった言葉以外の情報は補う必要があった、とされています。厚生労働省「障害福祉現場における生産性向上の基本的な考え方」(テキスト版PDF) AIが下書きにした時点で、何が抜けやすいかの一例です。

架空のメモ1件で、下書きの一文ずつに印を付ける

グループホームの世話人が、夕方に書いたメモです(説明のために作った架空の例です)。

18:40 Cさん、夕食は半分ほど。「あとで食べる」と話した。残りは職員がラップをして冷蔵庫へ。
19:30 居間でテレビを見ていた。隣のDさんと話していた(内容は聞いていない)。
20:10 Cさん、おなかをさすっていた。声をかけると首を横に振った。体調の確認は夜勤者に引き継いだ。

このメモから、次の下書きができたとします(想定の文で、実際のAIの出力ではありません)。

Cさんは体調がすぐれないため、夕食を半分残された。残りはご自身で冷蔵庫にしまわれた。食後は居間でDさんと楽しそうに会話され、落ち着いて過ごされた。20時ごろ腹痛を訴えられたが、様子を見て問題はなかった。

読みやすい文です。ここで、下書きを一文ずつ区切り、文の頭に印を付けていきます。メモにある文には「○」、メモにない内容を含む文には「△」、メモに書かれた事実と食い違う内容を含む文には「×」です。

  • 一文目は「△」: 夕食が半分ほどだったことはメモにあります。「体調がすぐれないため」という理由はメモにありません。メモにあるのは「あとで食べる」という本人の言葉です。
  • 二文目は「×」: 冷蔵庫にしまったのは職員で、Cさんではありません。
  • 三文目は「△」: Dさんと話していたことはメモにあります。「楽しそうに」「落ち着いて」はメモにありません。
  • 四文目は「×」: メモでは、Cさんはおなかをさすり、声をかけると首を横に振っています。「腹痛を訴えた」とは書かれていません。「問題はなかった」もメモにはなく、体調の確認は夜勤者に引き継がれています。

△と×の文は、次のどれかで直します。

  • メモと食い違う内容は、メモのとおりに書き直す
  • メモにない内容を消す
  • 書いた職員に確かめ、事実であれば、元のメモは消さずに、書き足した日時・書き足した人・どう確かめたかを添えて追記してから記録に入れる
  • 職員の受け取り方として残す価値があるなら、事実の文と分けて「職員の気づき」として書く

三つ目は、推測を消すための手順ではありません。かながわ福祉サービス振興会の研修資料「記録の書き方~自立支援のための記録とは~」は、事実と、支援者が考えたことが明確に分かれていることが重要だとしています。主観的な内容を残す場合も、事実と区別がつくように書く、という扱いです。同じ資料は、専門性に基づく推測でも、予断や決めつけの可能性は排除できないとも述べています。公益社団法人かながわ福祉サービス振興会「記録の書き方~自立支援のための記録とは~」(PDF)

推測は、決まった形の言葉のまわりに紛れ込む

一文ずつ印を付ける時間がとれない日もあるでしょう。そのときは、次の六つの形の言葉のまわりで、読む速さを落とします。1から5は、さきほどの下書きに出てきた形です。

  1. 理由をつなぐ言葉: 「〜ため」「〜ので」「〜により」。メモにない理由が、もっともらしくつながります。
  2. 様子や気持ちを表す言葉: 「楽しそうに」「落ち着いて」「不安そうに」。メモに観察として書かれているかを見ます。
  3. 言い切る言葉: 「問題はなかった」「完食した」「いつもどおり」。確認が必要だったことが、確認済みの事実に変わっていないか。
  4. 誰がしたか: 職員がしたことが本人のしたことに、ほかの利用者の言葉が本人の言葉に入れ替わっていないか。
  5. 本人の表し方: 「おなかをさすった」「首を横に振った」が「訴えた」「拒否した」のような別の言葉にまとめられていないか。
  6. 数・時刻・順番: 食事の量、時刻、出来事の前後。

4は、記録の研修資料が挙げている注意とも重なります。前述の資料は、「誰が何をした」「誰がこう言った」が途中で入れ替わらないことを挙げ、そのために一文を短く書くよう勧めています。下書きの一文が長いと、主語が入れ替わっていても目に留まりにくくなります。

六つは、見落としを減らすための目印です。ここに当てはまらない誤りもあります。目印のまわりだけを読んで確認済みにする、という使い方はしません。

メモの側からも、下書きに残っているかをたどる

○△×の印は、下書きに「足されたもの」を見つける読み方です。もう一つ、下書きから「消えたもの」は、下書きをいくら読んでも見えません。メモの側から、一行ずつたどります。

さきほどの例で、下書きから消えていたのは、特に次の三つです。

  • 「あとで食べる」という本人の言葉
  • 声をかけると首を横に振った、という本人の表し方
  • 体調の確認を夜勤者に引き継いだこと

どれも、次の支援に関わる内容です。「あとで食べる」が残っていれば、夜勤者は冷蔵庫の残りを声かけのきっかけにできます。引き継ぎが消えたまま「問題はなかった」と書かれると、夜勤者に確かめる必要が伝わりにくくなります。

メモの「内容は聞いていない」も、下書きには残っていません。代わりに入ったのが「楽しそうに会話され」です。聞いていないことを下書きが補っていないかも、メモの側から見ると気づけます。

メモの全行をたどるのが難しい日は、次の行だけでも下書きと照らします。

  • 本人の言葉(「」で書かれた所)
  • 言葉以外の表し方(しぐさ・表情・指さしなど)
  • 確認が必要なこと・引き継いだこと

この読み方には前提があります。下書きと並べて読めるメモが残っていることです。音声入力で直接下書きを作っている事業所では、AIに渡した元の文(文字起こしや入力した文)を、確定するまで下書きと一緒に残しておきます。元の文がないと、どちらの向きの確認も難しくなります。

書いた人と確かめる人で、見る所を分ける

全員が全部を同じ深さで読もうとすると、記録の多い日には続きません。役割を分けます。

書いた職員は、確定前に、下書きの全文に○△×を付けます。メモにはないが自分は覚えていることを入れたい場合は、元のメモを残したまま、書き足した日時と書き足した人を添えて追記してから、記録に入れます。覚えていることを確かめる手がかりは、書いた職員にしかありません。

確かめる人(サービス管理責任者やリーダーなど)は、△と×の付いた文と、六つの言葉のまわりを中心に見ます。あわせて、メモの「本人の言葉」「言葉以外の表し方」「引き継ぎ」の行が下書きに残っているかを照らします。確かめる人は、どの記録から読みますか。家族への連絡や、夜勤への引き継ぎ・受診の判断に使われる記録を先にします。

確かめる人が、印の付いていない記録や、メモが添えられていない記録を受け取ったら、確認済みにせずに書いた職員へ戻します。これを事業所の決まりにしておくと、読み方が人によって変わりにくくなります。

見落としを見つけたら、直した理由を一行残す

直した記録は、そのままにしておくと、同じ種類の見落としが次の日も起きます。確かめる人が下書きを直したら、別の紙に一行だけ残します。

見落としメモ(練習用の架空の型)
日付:   直した言葉の形:理由をつなぐ言葉/様子や気持ち/言い切り/誰がしたか/本人の表し方/数・時刻・順番/消えていた
※利用者の名前や記録の文面は書き写さない。書いた職員の名前も書かない

2週間たったら、どの形が多かったかを見ます。同じ形が続いているなら、読み方より前の段階を直す合図です。たとえば、AIへの頼み方に次のような一文を加えます。

メモにない理由・気持ち・評価は書かないでください。メモで確認が必要とされていることや引き継いだことは、確認が必要なこととして残してください。本人の言葉は「」のまま残してください。

頼み方を変えても、確認の手間はなくなりません。変えた頼み方が合っていたかは、見落としメモの数だけでは決めません。確かめた記録の数あたりの見落としメモの数と、確認済みにした後に見つかった誤りを、変える前の2週間と並べて見ます。見落としメモが減っても、確かめ方が浅くなっただけということもあるからです。見落としメモは、職員一人一人の評価には使いません。書いた職員の名前を残さないのは、そのためです。

頼み方を見直すときも、AIに利用者の情報を入れるのは、事業所が条件を決めて認めた範囲に限ります。使ってよいサービスやアカウント、入力してよい情報の範囲を、事業所の決まりで確かめておきます。下書きと並べて残す元のメモや見落としメモも、誰と共有し、いつまで保管し、どう廃棄するかを決めておきます。

次の1週間、確かめる記録に○△×を付けてみる

AIの下書きの見落としは、読む人の注意だけに頼ると減りにくいものです。一文ずつメモの出どころを探し、メモの側からも下書きに残っているかをたどる。推測が紛れ込みやすい六つの言葉のまわりでは、読む速さを落とします。取りかかる順番は、次の三つです。

  1. 次の1週間、AIの下書きで作る記録には、メモ(またはAIに渡した元の文)を添えて確かめる人へ回すと決める。
  2. 書いた職員は全文に○△×を付け、確かめる人は△と×の文・六つの言葉・メモの「本人の言葉」「言葉以外の表し方」「引き継ぎ」の行を見る。
  3. 直した記録は見落としメモに一行ずつ残し、2週間たったら多かった形を見て、AIへの頼み方かメモの書き方を見直す。

記録の様式や、AIへの頼み方が職員ごとに違う事業所では、見落としメモに同じ形が並んでも、どこを直せばよいかが決めにくくなります。夜勤や非常勤の職員が多い事業所では、確かめる人を誰にし、いつまでに確認済みにするかで迷うこともあるでしょう。

AIの下書きの確かめ方を相談したいときは、株式会社サクポートの無料相談をご利用ください。今の記録の流れとメモの残し方を伺いながら、確かめる人の分け方・見落としメモの使い方・AIへの頼み方の見直しを一緒に検討できます。

AIの下書きの確かめ方を、無料で相談する

コラム一覧へ戻る