短期入所の家族との情報共有にAIを使う 聞き取りのメモは要約させず、家族の言葉のまま項目に分ける

短期入所の申込みの電話を切ったあと、家族から聞いたことを急いでメモに打つと、十数行になります。食事の好み、薬、発作のときのこと、夜中の様子、連絡先。夜勤の職員にも伝わるように整えたくて、生成AIに「要約して」と頼みたくなります。
ただ、短期入所の職員が頼りにするのは、家族の言い方の細部です。「白いごはんなら食べる」「5分たってもおさまらないときは」「入院中は父の携帯に」のような量や条件は、要約すると消えやすくなります。家族が言っていない「偏食あり」のような判断の言葉が足されることもあります。AIに頼むのは要約ではなく、聞き取りのメモに残した家族の言葉のまま、事業所の聞き取りの項目に振り分けることです。聞いていない項目は「聞いていない」と書かせます。振り分けた一覧を、元のメモ・持参の薬・本人と照らすのは職員です。二回目の利用からは、前回の一覧を見ながら、変わったところを家族に聞きます。この記事では、架空の利用者が初めて短期入所を使う場面を例に、頼み方と確かめ方をたどります。
短期入所で引き継ぐのは、家族が見てきた本人の一日
運営基準は、短期入所を、介護を行う人の病気などの理由で、自宅で介護を受けることが一時的に難しくなった人に提供するものと定めています(第118条)。事業は、利用者の身体その他の状況や置かれている環境に応じて、入浴・排せつ・食事の介護などを行うものです(第114条)。食事は、栄養と、利用者の身体の状況や嗜好を考えたものにします(第122条第5項)。利用者の心身の状況や置かれている環境などの把握に努めることも、居宅介護の第16条を準用する形で求められています(第125条)。障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準 第114条・第118条・第122条・第125条(e-Gov法令検索)
国の解釈通知は、短期入所の提供に当たって、利用者の家庭環境等を十分踏まえ、自立している機能が低下しないように支援するよう求めています。食事は、利用者の嗜好や年齢、障害の特性に配慮するとしています。厚生労働省「障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律に基づく指定障害福祉サービスの事業等の人員、設備及び運営に関する基準について」(令和7年3月31日改正の新旧対照表、PDF)137〜138ページ
この記事の例で、家での本人の様子を話すのは母です。職員は、家族から聞いた様子を手がかりの一つにして、慣れない場所で過ごす本人の数日を組み立て、受け入れの日には本人の様子を見て確かめます。ごはんの好み、寝るときに落ち着く物、伝わりやすい合図は、家族の言い方のまま残っているほど、職員が同じように動きやすくなります。
「要約して」と頼むと、家族の言い方の細部が消える
ここからは、架空の利用者を例にします。実在の人ではありません。Sさんは20代で、知的障害と自閉スペクトラム症があり、てんかんの発作もあります。ふだんは自宅で両親と暮らし、平日は生活介護に通っています。母が手術で入院するため、初めて短期入所を3泊4日で使うことになりました。受け入れ担当の職員が母から電話で聞き、母の言い方をできるだけ変えずに、すぐに次のメモを打ちました。
Sさん(架空)初回利用の聞き取り 母から電話で朝は6時半ごろ起きる。起きたらまずトイレに行く。 ごはんは白いごはんなら食べる。混ぜごはんやチャーハンは手をつけないことが多い。 肉は小さく切れば食べる。魚の骨は自分では取れない。 飲み物は麦茶。牛乳は飲まない(おなかをこわすので)。 薬は朝食後と夕食後。夕食後の薬は先月から一つ増えた。名前は袋を見ないと分からないので、袋ごと持たせる。 発作は月に1回くらいで、寝ているときが多い。いつもは1〜2分でおさまり、おさまったらそのまま寝かせている。5分たってもおさまらないときは救急車を呼ぶよう、主治医から言われている。 夜中に一度起きてトイレに行く。知らない場所で目が覚めると、大きな声を出すかもしれない。 寝るときは、いつものタオルケットがあると落ち着く。持たせる。 お風呂は好き。シャンプーのとき、顔に水がかかるのをいやがる。 テレビの音が大きいのは苦手。 「おわり」は、言葉で言うより、指でバツを作ると伝わりやすい。連絡はふだんは母の携帯。入院中は父の携帯に。父は平日の昼は電話に出られない。
このメモをAIに貼り、「要約して」とだけ頼むと、次のようなまとめが返ることがあります。説明のために作った想定の文で、実際のAIの出力ではありません。
Sさん 生活情報のまとめ
・起床6時半。排せつは自立。
・食事: 偏食あり。乳製品は不可。魚は骨を取って提供。
・服薬: 朝食後・夕食後(持参)。
・発作: 月1回程度、1〜2分でおさまる。おさまったら休ませる。
・睡眠: 夜間に1回トイレ。タオルケット持参。
・入浴: 好き。洗髪時に配慮。
・苦手: 大きな音。
・緊急連絡先: 母の携帯。
読みやすくはなりましたが、元のメモと比べると、消えたものと足されたものがあります。
消えたものは、次のとおりです。
- 白いごはんなら食べる、混ぜごはんは手をつけない、肉は小さく切れば食べる(2・3行目)
- 夕食後の薬が先月から一つ増えた(5行目)
- 発作は寝ているときが多い、5分たってもおさまらないときは救急車を呼ぶよう主治医から言われている(6行目)
- 知らない場所で目が覚めると、大きな声を出すかもしれない(7行目)
- 「おわり」は指でバツを作ると伝わりやすい(11行目)
- 入院中は父の携帯に、父は平日の昼は電話に出られない(12行目)
足されたものと置き換わったものは、家族が言っていない言葉です。
- 「排せつは自立」: 母は、朝と夜中にトイレに行くと話しただけです。
- 「偏食あり」: 2行目の具体を、一語の評価に置き換えています。
- 「乳製品は不可」: 母が話したのは牛乳だけです。ヨーグルトやチーズのことは聞いていません。
- 「洗髪時に配慮」「大きな音」: 顔に水がかかること、テレビの音という具体が、広い言葉に置き換わっています。
いちばん困るのは連絡先です。入院中の連絡先として母が指定した父の携帯と、父が平日の昼は電話に出られないことが、まとめから消えています。まとめだけを読んだ職員は、入院中の母の携帯に連絡しようとするでしょう。
この想定の例では、AIのまとめのどの行も、短い言葉にそろえられています。家族が話した事実と、まとめる側が付けた評価が、同じ一行に混ざっているのです。夜勤の職員がこのまとめだけを読むと、混ぜごはんを出して手をつけてもらえなかったり、夜中に大きな声が出たときに理由が分からなかったりします。
AIには、家族の言葉のまま事業所の項目に振り分けさせる
AIに頼むのは、要約ではなく、振り分けです。家族の言葉はそのままにして、事業所の聞き取りの項目に並べ替えてもらいます。
ここで「家族の言葉」と呼んでいるのは、職員が聞き取りのメモに残した文です。母が話したとおりかどうかは、メモの文だけでは分かりません。食事の条件、薬、発作のとき、連絡先のような大事な点は、電話を切る前にメモを読み上げて、家族に確かめておきます。AIには、そのメモの文を変えずに振り分けさせます。
項目は、事業所が使っている聞き取りの様式(フェイスシートなど)に合わせるのが基本です。様式がなければ、受け入れの日に職員が困る場面から、項目を書き出します。
家族から聞いた情報には、本人の病気や障害、服薬のことが含まれます。業務上知り得た利用者と家族の秘密を漏らさないことは、運営基準の定めです(第36条第1項。第125条で短期入所に準用)。AIに渡すメモは、名前を記号に置き換えます。ただ、記号に置き換えても、障害や発作の様子、家族の入院といった組み合わせから、誰のことか分かる場合があります。記号に置き換えるのは対策の一つで、それだけで入力してよいことにはなりません。個人情報保護委員会は、事業者が生成AIサービスに個人情報を含む指示を入力する場合、利用目的の範囲内かを十分に確かめるよう注意を促しています。本人の同意なく入力した個人データが応答の出力以外の目的で扱われると法令違反となる可能性があるとして、機械学習に使われないことなどを確かめるよう求めています。個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日、PDF)2ページ
どのAIサービスに、どの情報まで入れてよいかは、AIサービス側の入力情報の扱いも確かめたうえで、法人が決めて認めた範囲に限ります。決まっていないうちは、この記事の架空のメモで頼み方を試します。認められたサービスに、次のように頼む想定です。
障害福祉サービスの短期入所で、利用の前に家族から電話で聞いたメモを整理します。
下のメモだけを使って、次の項目に振り分けてください。
項目:
・起床と睡眠
・食事と飲み物
・食べ物のアレルギー
・薬と飲み方
・発作や体調の急な変化のとき
・排せつ
・入浴・歯みがき・着替え
・日中の過ごし方と好きなこと
・苦手なことと落ち着く物
・本人への伝え方
・連絡先と連絡のつく時間
守ってほしいこと:
・メモの文をそのまま写す。言い換えやまとめをせず、「偏食」「自立」のような評価の言葉を足さない。
・写した文の終わりに、メモの行番号を(3行目)のように書く。
・一つの文が二つの項目に関わるときは、両方に写す。どの項目にも入らない文は「その他」に入れる。
・メモに一つも文がない項目は「聞いていない」と書く。
・数字・時間・回数と、「〜のとき」のような条件を落とさない。
・薬の名前や量を推測して書かない。対応のよしあしや、医療の判断は書かない。
メモ:
(記号に置き換えた聞き取りのメモを、行番号をつけて貼る)
次のように返ってくれば、確かめる材料に使えます。これも説明のために作った想定の文で、紙面の都合で一部を省いています。
起床と睡眠
・朝は6時半ごろ起きる。起きたらまずトイレに行く。(1行目)
・夜中に一度起きてトイレに行く。知らない場所で目が覚めると、大きな声を出すかもしれない。(7行目)
・寝るときは、いつものタオルケットがあると落ち着く。持たせる。(8行目)
食事と飲み物
・ごはんは白いごはんなら食べる。混ぜごはんやチャーハンは手をつけないことが多い。(2行目)
・肉は小さく切れば食べる。魚の骨は自分では取れない。(3行目)
・飲み物は麦茶。牛乳は飲まない(おなかをこわすので)。(4行目)
食べ物のアレルギー
・聞いていない
薬と飲み方
・薬は朝食後と夕食後。夕食後の薬は先月から一つ増えた。名前は袋を見ないと分からないので、袋ごと持たせる。(5行目)
発作や体調の急な変化のとき
・発作は月に1回くらいで、寝ているときが多い。いつもは1〜2分でおさまり、おさまったらそのまま寝かせている。5分たってもおさまらないときは救急車を呼ぶよう、主治医から言われている。(6行目)
(排せつ、入浴、苦手なことの項目は省略)
日中の過ごし方と好きなこと
・聞いていない
本人への伝え方
・「おわり」は、言葉で言うより、指でバツを作ると伝わりやすい。(11行目)
連絡先と連絡のつく時間
・連絡はふだんは母の携帯。入院中は父の携帯に。父は平日の昼は電話に出られない。(12行目)
要約より長くなりますが、どの文も聞き取りのメモの文のままです。行番号があるので、どの行がどこへ行ったかを追えます。「聞いていない」と書かれた項目は、次に家族へ聞くことの一覧になります。
振り分けた一覧は、元のメモ・薬の説明書・本人と照らす
AIの返答を引き継ぎの一覧として使う前に、受け入れ担当の職員が確かめる順番は、次のとおりです。
- 行番号: 元のメモの1〜12行目が、どれも一度は出てくるかを見ます。出てこない行があったら、その文を項目に入れるのは職員の仕事です。
- 言い方: 写した文が、元のメモと一字ずつ同じかを見ます。とくに大事なのは、数字・時間・回数と、「〜のとき」「〜なら」の条件です。
- 薬: 薬の名前・量・飲む時間を確かめる材料は、AIの返答ではありません。持参した薬の袋と、薬局が出す薬の説明書やお薬手帳で、職員が確かめます。看護職員のいる事業所では、看護職員と確かめるのが基本です。「先月から一つ増えた」のように、家族の話と持参の薬が合っているかも見ます。
- 急な変化のとき: 発作や体調の急な変化のときの家族の言葉は、そのまま残します。事業所としてどう動くか(誰が救急車を呼ぶか、どこへ連絡するか)は、事業所の緊急時の対応の決まりや協力医療機関との取り決めと合わせて、管理者や看護職員が決めておくことです。運営基準は、緊急時等における対応方法を運営規程に定めることと、協力医療機関を定めておくことを求めています(第123条第6号、第125条で準用する第91条)。
- 聞いていない項目: 「聞いていない」項目と、文があっても足りない点(この例では、薬を自分で飲むか、手伝いがいるか)を、利用の前の確認の電話か、受け入れの日に家族に聞きます。
- 本人: 家族の言葉は、家族から見た本人の様子です。受け入れの日に、本人にも、伝わる方法で確かめます。好きなこと、いやなこと、夜に落ち着く物を、本人がどう示すかを見ます。
最後の確かめを入れたのは、運営基準の定めがあるからです。短期入所の事業者は、利用者の意思決定の支援に配慮すると定められています(第121条第2項)。解釈通知は、この項について療養介護の節を参照するよう示し、意思決定支援ガイドラインの基本原則を挙げています。本人への支援は自己決定の尊重に基づき行うこと、意思の確認がどうしても難しい場合は、本人をよく知る関係者が集まり、根拠を明確にしながら意思と選好を推定することなどです(解釈通知47〜48ページ・89ページ・137ページ)。家族の話は大切な手がかりですが、本人の思いと同じとは限りません。
確かめた一覧は、夜勤の職員も含めて、受け入れに関わる職員が同じものを見られるようにします。確かめた職員と日付も書いておくと、次の利用のときに、どの話がいつのものかが分かります。
二回目からは、前回の一覧を見ながら変わったところを聞く
翌月、Sさんは2泊3日で二回目の利用を申し込みました。母は退院していて、電話で「前回と同じです」と言います。忙しい家族にとって自然な返事です。ただ、そのまま受けると、変わったことを聞き逃します。
前回の一覧を手元に置いて、項目ごとに聞きます。「お薬は前回から変わりましたか」「連絡はお母様の携帯に戻してよいですか」「最近、夜の様子で変わったことはありますか」。架空の例では、こう聞いたことで、夕食後の薬がまた変わったこと、連絡先がふだんどおり母の携帯に戻ったこと、生活介護で今週行事があり疲れているかもしれないことが分かりました。
AIを使うなら、前回の一覧と今回の聞き取りのメモを渡し、次の三つに分けさせます。
前回の一覧(A)と、今回の聞き取りのメモ(B)を比べます。
Bの文をそのまま使って、次の三つに分けてください。言い換えや、医療の判断は書かないでください。
・変わったこと(Aの文と、Bの文を並べる)
・新しく聞いたこと
・今回の話に出ていない項目(項目名だけ)
三つめの「今回の話に出ていない項目」は、変わっていないという意味ではありません。家族が触れなかっただけのこともあります。薬、発作のとき、食事、連絡先のように、受け入れの日に困る項目が並んでいたら、聞くのは電話を切る前です。
退所の日に、利用中の様子を家族に伝えるときも、同じ項目で書くと、家族が次の申込みで変わったところを言いやすくなります。連絡の文の下書きにAIを使う場合は、その日の記録に書かれていることだけを使わせます。記録にない様子を、AIが自然な文に整えるために足すことがあるためです。
Sさんが日中に通う生活介護や、相談支援専門員と、この一覧を共有したい場面もあります。ほかの事業者に利用者や家族に関する情報を提供するときは、あらかじめ文書で同意を得ておくというのが、運営基準の定めです(第36条第3項。第125条で短期入所に準用)。解釈通知は、この同意は、サービス提供の開始時に利用者及びその家族から包括的な同意を得ておくことで足りるとしています(67ページ)。一覧に入るのは、本人の情報と、家族の入院や連絡先のような家族の情報の両方です。共有の前に、契約のときの同意書で、共有する相手先と情報の範囲、本人と家族それぞれの同意があるかを確かめます。
次の申込みの電話は、前回の一覧を手元に置いて受ける
短期入所で家族から聞いた生活の情報をAIで整理するなら、要約させずに、家族の言葉のまま事業所の項目へ振り分けさせます。聞いていない項目と前回から変わったところは、職員が家族と本人に確かめます。取りかかる順番は、次の三つです。
- 次の利用の申込みの電話を受けるとき、前回の一覧を手元に置く。初めての利用なら、事業所の聞き取りの項目を書き出しておく。
- 聞き取りのメモに行番号をつけ、名前を記号に置き換えて、法人が認めたAIサービスに、家族の言葉のまま項目へ振り分けさせる。条件が整わないうちは、架空のメモで試す。
- 元のメモと一行ずつ照らし、薬は持参の薬と説明書で確かめる。「聞いていない」項目と変わったところを家族に聞き、受け入れの日に本人にも確かめる。
振り返るときは、受け入れたあとに「聞いていなかった」と分かったことを見ます。それを、事業所の項目や二回目の電話で聞くことに足したかも、振り返る点です。
聞き取りの様式は、短期入所の事業所ごとに違い、本人が日中に通う事業所の様式とも違うことがあります。家族から聞いた病気や服薬の情報を、どのAIサービスにどこまで入れてよいかも、法人の決まりがないままでは、職員ごとに判断が分かれてそろえにくいところです。
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